第18話 武器は武器屋

「スキルって何なんだ?」


 俺は宿のベッドに寝っ転がったまま、ステラにそう聞いた。


「……。難しい、質問だね……。…………スキルといっても、色々あるから……」

「色々ねぇ」


 今の俺は4つのスキルを持っている。『隠密Lv2』の習得と同時に手に入れた『先制攻撃』と『忍びの呼吸』そして『身軽』だ。この中で『身軽』のスキルの効果は既に体感している。今も自分の身体とは思えないほどに全身が軽いのだ。適当にジャンプしてみると、2mとか飛べるから相当にになった。


 どう考えてもこれはスキルの効果だ。


「同じ……スキルでも……人によって、効果が違う……。こればっかりは……難しい……」

「ふうん?」


 人によって効果が違う?


 めちゃくちゃだな。


「そういうものか。じゃあ仕方ないな」


 しかしステラがそう言うならそうなのだろう。俺はそう言って納得した。


 けれど、これでは肝心のスキルの内容が知りたいという好奇心を満たしてくれない。


 ならスキルを字面じづらで見ると案外スキルの効果が分かったりしないだろうか? 例えば『先制攻撃』。これはどう見たって『先制攻撃』に関係するスキルだろう。例えば、先に攻撃したら火力があがったりとか? 


 いや、ゲームじゃねんだからさ……。


 ならもう1つの『忍びの呼吸』の方を考えてみよう。忍び、まあどう考えてもこれは忍者だろう。まさか忍びって固有名詞じゃあるまいし。ってことは忍者の呼吸。見つかりにくくなるとか? まあ、そんな感じだろう。


 ってことは、やっぱりこっちの『先制攻撃』がネックだな。こればっかりは試してみないとどうだか分からないだろうし、分かるまで放っておこうか。うん、それが良いかもね。次に狩人ギルドで依頼された時にでも試してみよう。けど『隠密』スキルを持ってるのに、新しくスキルを手に入れてもね……。


 だが今はそんなことよりも問題になることがあって。


「スキルの話は一旦置いておこう。今の問題は俺の武器だ」

「壊れ、ちゃった……もんね……」

「そう。ってなわけで買いに行かなきゃ行けないんだ」

「……これを、機に…………絶対、無くさない武器に……してみたら……?」

「絶対無くさない武器?」

「うん……。拳、だよ……」

「えぇ? 殴ってモンスター倒すってこと? そんなん馬鹿じゃん」

「馬鹿……?」

「だって人間が一生懸命考えて楽に狩る方法として武器を持ってんだろ? なんでそこで拳を使う? そんなん馬鹿がやることでしょ……」

「……ロマン」

「はー、なるほど。そうきたか。なるほどね」


 ステラにそう言われて思わず俺は納得してしまった。確かにロマンは大切だよなぁ……。


 男の子って馬鹿ね––––。


 そういうない。


 天使ちゃんが呆れたようにこちらをチラリとみて、やれやれといった具合に肩を竦めた。もしかして天使ちゃんはやれやれ系ヒロインの可能性が微粒子レベルで存在している……ッ!?


「けど、俺はとにかく武器を買うよ」

「それは……良いと、思う……。けど、武器は……どこで……買うの?」

「む?」


 確かにそうだ。俺はこの街のことをほとんど知らない。だからどこで武器が買えるのかも知らない。というか、そもそも戸籍を持っていないし、身分証明もできないような俺がこの世界で武器を買えるのかも怪しいものだ。


「狩人ギルドで聞けばなんとかなるでしょ」

「なるほど…………」


 今度はステラが感心する時だったらしい。俺はすっかりドヤ顔を浮かべると、朝っぱらから狩人ギルドに向かった。中に入ると、コレットちゃんは何かしらの事務仕事をしていた。


「おはようございまーす」


 彼女は俺たちを見つけるとぴょーんと跳ねてこっちに向き直った。何でこの人朝からそんなに元気なの……?


「聞いてくださいよ! ユツキさんのおかげで狩人ギルドの評判も上々! 次々に依頼が舞い込んできて久しぶりの大忙しですよ!!」

「それはよかったです。新人狩人は増えましたか?」

「あーっと、いえ、それはこれからというか……」


 それは単に狩人ギルドが良い様に使われてるだけじゃ……?


 なーんてことを思ったがコレットちゃんは仕事が舞い込んできて嬉しそうだから、ぐっと胸の内に飲み込んで俺は武器屋の場所を尋ねた。


「武器ですか? そういうのは工房ギルドで聞くのが1番ですよ!」

「工房ギルドもあるんですか」

「ありますよ!? ユツキさん、知らないんですか!!?」


 こいつマジかみたいな顔してコレットちゃんに見られる俺。この人には”稀人まれびと“だって言ってないからなぁ……。仕方ないといえば仕方ないのだ。


「い、いや。田舎出身なもので……」

「あー。村出身ですか。それは仕方ないですねぇ……」


 適当に嘘をついたらあっさりコレットちゃんは引いてくれた。この世界、活版印刷技術が全然発展していないので情報の伝達速度が遅い。ネットというものがどれだけ優れていたのかをこの世界にきてなんども体感しているが、生憎と二度とネットには触れられないのである。


「それで、その工房ギルドはどこにあるんです?」

「領主の館の隣のでっかい所です」

「ほー。恵まれてますね」

「ウチとは大違いですよ!」


 半泣きで叫ぶコレットちゃん。うーん、まあ、人気ないから仕方ないよねぇ……。

 しかし、領主の家の近くにあるとか癒着の匂いがぷんぷんですな。


 一等地だからじゃないの––––。


 と、言いたげにジト目でこちらをみてくる天使ちゃん。ぐうの音もでねえ。


「んじゃ、武器買ってきまーす」

「はい、いってらっしゃい! ということは、今日は昼過ぎからお仕事ですか?」

「うーん。ささっと決まればそうなりますね」

「なら簡単な依頼を適当に選んでおきますね!」

「お願いします」


 ギルドはケチ臭いがコレットちゃんの仕事チョイスは一流だ。その日の気分に合わせて最適な仕事量を選んでくれる。問題はその優秀な人材がほとんど俺だけのために働いていることだ。……まあ、ギルドの経営とか考えるのって俺の仕事じゃない別にいっか……。


 コレットちゃんに一度別れを告げて俺とステラは領主の館に向かって歩いて向かう。しばらく歩いて街の中心地にやってくると、すぐ近くに工房ギルドがあるのがわかった。


「……でっか」

「…………。5階建て……。お金、持ち……だね……」

「狩人ギルドの金がないのか、それとも工房ギルドが金持ちなのか……」

「……両方、じゃない?」

「そうかもな……。んじゃ、中入って聞いてみよう」


 立派な石の階段を数段上がってギルドの中にはいった。……なんか違和感があると思ったらバリアフリーの坂が無いな。そういうことに気がつくたびにこの世界が日本とは全く違う別の世界だと思い知らされる。


「いらっしゃいませ! こちらにどうぞー!」


 結構若めの女の子が対応してくれた。ざっと見の年齢で判断すると14とか15とかだろうか? この世界は労働年齢が低いんだもんなぁ……。


「今日はどんな御用ですか?」

「武器を見たいんだ」

「はい。何セットをご希望で?」


 何その質問。怖いんですけど。

 業務用の武器しか扱ってないの?


「何セット……? いや、1つだけど」

「1つですねー。ご希望の武器種はございますか?」


 しかし俺がそう言っても目の前の女の子は何一つ嫌な顔することなく対応してくれた。


「短刀とか、短剣とかかな」

「でしたら、このお店がおすすめですよぅ!」


 え、何。武器種でおすすめの店とかあんの??


 少女は木の板に描かれた地図の中にある1つの工房を指さした。やけに大雑把な地図だな。


「ここ? 工房ギルドを出て、曲がって曲がって……」

「大丈夫ですか? 案内要ります?」

「いや、多分覚えた……。うん、OK」

「はーい。またのご来店をお待ちしていまーす」


 俺が立ち上がって窓口を後にすると、後ろに騎士っぽい人が並んでいた。もしかして騎士団の武器って自費なんだろうか……。


 傭兵じゃないの––––。天使ちゃんはその騎士っぽい人のほうをチラチラと見ていた。


 ははあ、なるほど。そういうのもあるのか。


 推測だけどね––––。何を言ってるんだか、と言わんばかりに呆れる天使ちゃん。呆れててもかわE。


「道は……覚えたの…………?」

「適当に歩いてりゃつくだろ」


 最近の子供は地図が読めないだとか何とか言われてるけど、Google mapが読めるんだから地図は読めるでしょ。現在地が分かればあとは歩くだけである。ということで歩くこと数分。大通りに面した結構良い立地にその工房は立っていた。


「いらっしゃいませっ!!」


 次に俺たちを迎えてくれたのは10ほどにも満たないような小さな少年だった。これが丁稚でっちってやつなのかな。


「工房ギルドで紹介されたんですけど、短刀とか短剣とか扱ってるお店ってここ?」

「はい! あってます!!」


 おうおう。元気だなぁ。


「じゃあ見てもいいかな?」

「はい! 案内しますね!!」


 声がでかいというか、なんというか。少年に案内されて奥に入ると、見慣れた少女が立っていた。


「あれ? レイじゃん」

「ん? ああ。久しぶりだね。ユツキ」


 んで、その隣に立ってるスレンダーな美人さんは誰? という俺の疑問を読み取ったのか、レイは後ろの女性を紹介してくれた。


「こっちは僕の姉。リタだよ」

「…………」


 彼女はこくり、とわずかに会釈した。


 はぇー。これが強いと噂のリタさんですか……。

 

 俺はすっげぇ眠そうにしているお姉さんを見ながら、会釈を返した。

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