脈なし

ネルシア

脈なし

家族連れが来るような施設でのチケット販売、並びに場内巡回の仕事。

なぜこの仕事を選んだかって?


資格なし、学歴なし、経歴なしの20代後半女性のレズ。

こんなロースペックで尚且つマシ(+女性が多いはず)だと思った職場がここだったのだ。


だが、クレームは来るわ、職場で働く若い子たちは別の人の愚痴ばっかり。

私もなんか言われてるんだろうなぁと想像はするが、耳には入っていないため、聞こえないと同意義だ。


今日は平日のため、この施設にはほとんど人が来ない。

もう数人のアルバイトの子たちと微妙な空気の中で時間をひたすらに過ごす。


そんな静寂を破るように明るい声が聞こえてくる。


「おはようございます!」


つい最近入ったばっかりの子。


「おはよー」


とその子と同年代の大学生の子たちがおしゃべりを始める。

正直羨ましい。

私も若ければなぁ・・・。


それでもその子たちとのおしゃべりを終え、わざわざ少し離れたところにいる私のところに来て挨拶をしてくれる。


「おはようございます!」


「うん、おはよー。」


あぁぁぁぁぁ、女神。

マジ女神。

可愛い。

ずるい。

食べたい。


「今日は?」


「1日中巡回です・・・。」


がっくりと肩を落とす。

その仕草さえ可愛い。

声も可愛い。

見た目は・・・普通。


「いやなお客さんいないといいね・・・。」


「ほんとです・・・昨日とか訳の分からないクレームしてきたお客さんいたので。」


しかめっ面で嫌そうにする。


「では行ってきまーす。」


「行ってらっしゃい。」


他の子たちもいってらっしゃいと挨拶をする。


あぁ、あの子と仕事終わりまで会えないのか。

少しだけ傷付く。


1日の仕事を終え、あの子の元へと向かう。


「もうあがりですか?」


私を見つけて話しかけてくる。

テンションが上がる。


「うん、朝番だったからね。」


「いいなぁ・・・。」


思い切って誘ってみる。


「時間空いてる日ある?」


「最近就職説明会とかで忙しくて・・・。」


「あー、うんそうだよね・・・。もし空いてる日あったら教えてね!」


「はい!!」


期待を胸に膨らませ、アパートへと帰る。


だが、それから一週間、その子と仕事で会うまで、連絡は一切なかった。


その次の週も、さらに翌週も。


「脈ないじゃん・・・。」


ははっと乾いた笑いが出る。

でも、私の生きがいはこの子しかない。

脈がないと分かっていながら、求めてしまう。

迷惑だろうなと思いつつも、離れたくないと思ってしまう。

話しかけてしまう。

連絡を求めてしまう。


それがもつれにもつれて1年間限定のこの施設が終わる日が来た。

あの子は就活のため、もういない。


皆口々にお疲れさまでした、また遊ぼう。

連絡しようね。

と寂しがっている振りをしている。


最後にあの子から連絡ないかなとスマホを見るが、無情にもスマホの画面には、

何の通知も表示されていなかった。


FIN.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脈なし ネルシア @rurine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説