別れの季節に桜は咲いて
夕焼けに憧れる本の虫
1. 出会い
桜の花びら一枚一枚が,集団として暴力的なまでの美しさで私の視界を奪う。
桜は嫌いだ。だって,別れの季節だから。嫌が応にも別れを連れてくる春って本当に,本当に——
「はじめまして。あたし,はるのゆみ。もしかして同じクラス?」
私の思考を遮るように,快活そうな女子の顔が急に目の前に現れ,謎の明るさで話しかけてくる。
「はじ,めまして。ええと,……」
言い淀む私に微笑んだ彼女は,私の制服の胸元を指さす。
私は慌てて制服の胸元を見比べる。私のと,彼女のと。そこについていたのは,紛れもなく真新しいピンバッジだ。この高校の音楽科の生徒である,という証の。
「音楽科だよね? あたしも。よろしくね」
そう言い私の手を取った彼女は,「教室行こ」と躊躇なく歩いていく。「こう見えてあたし,ピアノ専攻なんだぁ。見えないよね?」だとか,「桜,綺麗だねぇ。写真撮った?」だとか矢継ぎ早に話す彼女に私は足を止める。ワンテンポ遅れて,彼女が驚いたようにこっちを振り返った。
春は別れの季節。「その代わりに出会いがある」なんて聞き飽きた。新しい出会いは,別れへのカウントダウンの始まりだ。だから。
「私,梓川はる。ピアノやってる。よろしく」
少しだけ声が震えた。驚いた表情だった彼女の表情が,笑顔へと変わる。
「うん! よろしくね!」
繋いだ手にきゅっと力を込める。
浅い関係を保つのだ。もう,傷つかなくていいように。
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