両親がくれた葦

桜乃

第1話

 世界一周を果たすのは、昔からの僕の夢である。

 そのためには船が必要だ。飛行機が必要だ。助っ人が必要だ。金が必要だ。

 そして。

 ーー足が必要だ。

 そう。人間の、僕自身の足が必要.........なのだが。

 大層なことに、僕には足がなかった。

 なにも、ふざけているのではない。

 みんなにはついている温かい血の通っていて、綺麗な肌色をして指が五本ある、歩くための、走るための足が僕にはないのだ。

 両親曰く、幼き頃の僕には足があったらしい。つまり、生まれつき足がないというわけではない。

 ということは、なんらかの事故でそのように至ってしまったのか? 違う。

 僕は擦り傷以外の怪我をしたことがない。

 骨だって折ったことはないし、インフルエンザにすらかかったことがない。それくらい、身の管理には徹底している。

 それでも僕には足がない。この現実は変わらない。

 そう。僕が足をなくしたのは、先週に両親から贈られてきた、"二本の花"が原因だった。

 一人暮らしで周りから庶民度にこそ定評のある僕は、家賃一万もしないオンボロのアパートに住んでいた。

 健康管理はできていても、整理整頓は我ながら残念なもので、たまたま俺の家を訪れた母が僕の家の有様をみると泣いて実家に帰る程だった。

 本棚からは啓発本が抜け落ち、キッチンには未洗の食器の周りにハエが当然のように住み着いていた。五、六匹いたから名前をつけてやろうかと思ったがやめた。

 だからだろう。この様子が母親に見られたのが全ての始まりだった。

 親が僕の面倒を見れないせめてもの思いだろうか。両親は僕に花を贈ってきた。

 父親のと母親の分の二本。

 そいつは見たこともない種類の花だった。

 無駄にでかいダンボールにいられてきた花だったが、いかんせんどこにも花の名前もなにも詳しいことが書いていなかった。

 両親にメールで花の名前を聞くも、母親からは「あなたのことが心配だから贈っちゃったわ」と、僕の聞きたいこととはまるで違う回答が返ってきた。

 父親に関してはシカトされた。怖いので父親には二度と花に関することは聞かないことにしよう。

 仕方がなく、捨てるわけにもいかないので僕はちゃんとスーパーで鉢とそれ用の土を買ってきてこの二本の花を植えて、育て始めた。

 枯らすと後々両親に何を言われるか知ったもんじゃないのでちゃんとネットや図鑑で育て方を調べた。

 結果はすぐに出た。

 二本の花はみるみる育った。一本は白色でもう一本は赤色だった。どちらかというと薔薇に似た花だった。

 ちゃんと名前もつけてあげた。愛情を込めてつけてあげた。

 二本聳え立つ花。世界一周を夢見る僕にはこいつらが人間の足に見えた。だから「考える葦」と名付けた。

 単純な考え。啓発本の読み過ぎだろうか。いや関係ないか。

 まぁいい。とにかく、この時の僕は浮かれていた。僕はこの綺麗な白色と赤色の花がちゃんと咲いてくれたことに浮かれていた。

 名前をつけた翌日。

 二本の花は自立した。

 僕が与えた名前がよほど嬉しかったのか、奴らは自ら歩き出した。

 そして僕の足を喰らった。

 僕は寝ていたから記憶にないけど、朝起きるとそいつらは僕の足になっていたのだ。

 普段から自分の足なんてまじまじ見ることはないけど、でもたしかに僕の足は今では「考える葦」になっていたのだ。

 両親から授かった大切な二本の花。

「考える葦」になった僕はどうやって世界一周を果たそうか。

 僕は哲学者になった気分で、その日も夢を見た。

 

 

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両親がくれた葦 桜乃 @gozou_1479

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