第39話

 湖に半島のように突き出た崖の上。グリュネスタイン教会は、険しい地形の上に建っている。元々がそこに至るのが修行となるような場所であったため、常人はたどり着くことができない。

 崖を登ることは不可能だ。よって、赴くには半島の入り口を通るしかなく、そこに見張りの小屋が建てられていた。

「そうなるように、僕が意見しました」

「それを利用して自ら潜入するのか」

「頭いいでしょう」

 龍は旋回し、教会のすぐ前で着地した。そこには、見張りの兵も、誰もいない。

「ここが……」

「その昔、龍の拠点となっていたそうです」

「えっ」

「いや、そう読解しただけなんですけど。ここに兵力があったのは確かです。ただ、龍でもいたと考えないとおかしい。下りていくのも一苦労なので」

「そうか……。とにかく、中に入ろう。皆がいるのだろう」

「いやいや、こんな夜中ですよ。単純に入るのは無理です。取次ぎを頼みましょう」

「取次ぎ?」

 そう言うとテューアは、入り口横の小箱に紙を投げ入れた。

「何をしたんだ」

「元々は懺悔を投げ入れる箱だったようです。何かあるときは、ここから知らせるようにと伝えてあります。中の使用人が気付けば、扉は開くはずです」

 しばらく待っていると、教会の扉がゆっくりと開いた。中から若い男が現れる。

「本当に、姫様?」

「おお、リケリ!」

 ディアマントは駆け寄り、男の肩を叩いた。

「本当に……姫様なんですね!」

「ああ。元気だったか」

「はい。いや、気持ちは沈むことも多いですが……」

「リケリさん、皆様は起きていますか?」

「テューア……」

 リケリは、補佐士官の体を上から下まで見た後、目を見開いた。言葉がなかなか出てこない。

「気持ちはわかる。兄のことは……ここでは釈明しない。ただ、今後のことを話さなければならないんだ。通してもらえないか」

「……」

「リケリ、私からも頼む。テューアは私を救ってくれた」

「姫様……」

「ここに家族を逃がしてくれたのもテューアの策だった。とにかく、恨むべきはこいつではない」

「わかりました。ご主人様は伏せていますので、奥方様にお会いしていただくということでいいですか?」

「父はやはり具合が悪いのか」

「はい」

「ヴィンドは?」

「ヴィンド様は……元気とは言えません」

「そうか……」

「姫様の顔を見れば元気になるかもしれませんが、今日はもう寝ています」

「また来ることになる。今日のところは奥方様に」

 リケリは何回か歯ぎしりをした後、「わかりました」と言って頷いた。


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