補足b「わたしの空間恐怖症について」
「わたしの空間恐怖症について」
わたしは、なんとなく空というものが上に潰れているような気がしていました。
わたしは小さなころから、青い空というものをどうしても広いものだと思えず、天球は地面にかぶせられたぼやけた瑠璃色のカヴァーであり、プラネタリウムを見終わって、電気が付くと見えるあの白い半球の天井みたいになっているような、どちらかといえばそんなイメージだったのです。
青空は僕を閉じ込めるような気がしました。空の青色は、美しいのですが、その向こうを想像させる色ではなかったのです。私はむしろ夜のまっくろに吸い込まれそうな空の方が、そのまま真っ暗い宇宙に連結していくイメージが容易で、広く、自由に見えたのです。
それに夜は沢山星が出ているのに、昼間は太陽一つなのです。本当はあるはずの星々は、太陽の強い光線にさえぎられて見えないのだと知ったときは、青空について、これは星々が覆い隠された偽りの空だと考え、太陽について少しばかり猜疑心さえ抱いたかもしれません。しかしそう考えたとき、真実の空は夜の空なのだということになると私は気が付きます。わたしは夜が嫌いでした。暗い布団のなかでひとり目をつぶっていると、何となく、ただ空間だけがある暗いところに浮かんでいて、だんだん肉体と暗闇との境界の区別がつかなくなり、そのまま距離さえもない遠くの何処かへ消えてしまいそうな気がしてくるのです。
とにかく私は我々を閉じ込ているような青空に対して、常に心の隅に疑いの目を持ち、それでいて深遠な夜の空を恐れて、窓とカーテンをしっかりとしめて眠ったのです。
わたしが人生で初めて恐れたものは、空間でした。それは青色な空であり、宇宙に連続する夜の空であり、暗闇であり、上下と左右の秩序のない無限の距離を持った宇宙でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます