茜色した思い出へ
長月瓦礫
1 復活
昔なのか、今なのか。
かつてこの世界のどこかにいたのか、今もいるのかもしれない。
まあ、それは分からないが、そんな世界に双子が産まれた。
双子はミクとリクと名付けられ、生まれた時からずっと二人でくっついて、いつも一緒に遊んでた。
この仲良し兄妹は近所でもすぐに有名になり、本当によく可愛がられていた。
茜色の夕焼け空に見送られなが、家族の待つ家に帰った。
季節は穏やかにめぐり、二人は一緒に年を重ね、平和な世界を生きていた。
離ればなれになっても茜色の空と思い出が二人を繋げてくれる。
誰もがそう信じて疑わなかった。
しかし、その悲劇は突然、世界を襲った。
平和な世界に感染症という名のヒビが入り、日常が軋み始めた。
新しい病気はあっという間に広がり、多くの人々が犠牲なったのは言うまでもない。
病院はいくつあっても足りず、様々な情報が飛び交い、人々は翻弄された。
世界は一気に姿を変えてしまい、何もかもがひっくり返ってしまった。
一番の不幸はといえば、リクが新しい病気にかかってしまったことだ。
誰から貰ったのか、原因もよく分からないまま、病院へ連れて行かれた。
すぐさま入院が決定した。
何もできないまま隔離されてしまい、ロクに会うこともできない。
ミクはひとりで家で彼の帰りを待っていた。
「また会える」という言葉を信じていた。
病は彼の体を蝕み、とうとう魂を奪ってしまった。
さらに、手の施しようのない病から人々を守るため、葬式に参加することを禁じられていた。
これがどれだけ悲しいことか。
人生が不遇な形で終わった上に、別れを言うことも許されないのだ。
ミクだけが取り残され、終わらない夜が始まった。
死後の世界に茜色の空は見えているのだろうか。
誰にも会えなかったことをどう思っているのだろうか。
片割れと言っても過言ではない存在を失ってから、彼女から笑顔が消えた。
ある日、墓石の前で泣いていると、リクの墓から何やら芽が生えていたことに気がついた。緑の小さな双葉は、かつての自分たちを思い起こさせた。
ミクはそれを大事に育てた。
どんどんつるが伸びて、花が咲いて、小さな実ができた。
実も大きく膨らんで、カボチャであることが分かった。
「私が寂しがらないように、リクが残してくれたんだわ」
これが動物なら可愛がることもできたのだろうが、目の前にあるのはかぼちゃだ。
野菜であれば、食べてもらうのが一番の幸せだろう。
生死の境があいまいになる日、ミクは料理してもらおうとかぼちゃを収穫しにリクのお墓へ向かった。秋も深まり、落ち葉が降っていた日のことだった。
丸々と大きなかぼちゃがそっと隣に寄り添っていた。
つるを切ろうとへたに手をかけたその時だ。
「こんなところで何してるんだ!」
閑散とした墓場に鋭い声が響き、あたりを見回した。
墓石は黙り込み、ミク以外は誰もいない。
「さてはかぼちゃ泥棒だな! 人の物を勝手に盗ったらいけないんだよ!」
声の主を探している間に、かぼちゃが浮いた。
無数の切れ込みが入り、あっというまに顔ができた。
奇怪な現象を目の当たりにして、叫ぶことさえ忘れてしまった。
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