魔物に滅ぼされた世界を空間魔法で生き延びる

@kiriti

第一章 空白の五日間

第1話 始まりの声

それはとある金曜日の夜のことだった。


俺、田中和彦は会社の炎上案件を終わらせるために30連勤という俺史上最長の連続勤務をやっとのことで終わらせ、明日から五日間の休暇に入るところだった。


ふらふらになりながらも明日から休みだという安堵もあり、最後の力を振り絞って3階のマンションの階段を上がり、一番奥の自分の部屋の扉を開ける。


「ただいまー……」


などと言ってはみるものの一人暮らしの真っ暗な室内からの返答はない。


(これで可愛い彼女でもいればなぁ、疲れも吹っ飛ぶのに……)


誰もいなくてもただいまと口にするのは単なる習慣だが、アニメが大好きな俺はつい「おかえり、和彦君」などといいながら廊下の奥からパタパタと駆けつけてくれる可愛い彼女を夢想してしまう。


「はぁ……、馬鹿な妄想だ。疲れてんなぁ」


そう独り言を愚痴り、帰りにスーパーで買ってきたインスタントカレーやカップラーメンなどを床に置く。

今日から五日間休みが終わるまで一歩も外に出ないというつもりで大量に買ってきた。

それに、残業続きで家ではろくに食事が取れないだろうと、ネットショップで買い置きしておいたカロリーメーカーやお米、お茶なども大量に余っている。


それらを一瞥し、改めて次の出勤日まで家から出ないと決めた俺は、今着ていたよれよれのスーツを脱ぎシャワーを浴び、歯を磨いてベットに飛び込む。


(あー気持ちいいー)


残業続きでろくに洗っておらず、シーツすら変えていない布団なのに、何故かまるで洗い立てのように軽やかで肌に触れる箇所が冷たくて気持ちがいい。


しんどい仕事を終わらせ、頭を空っぽにして惰眠を貪れるのだ。これほど晴れやかなことはない。


(明日から5連休。何が起こっても俺は起きることはないだろう!おやすみ……)


そんな決意と共にベットに入ってわずか数分、どこまでも深い眠りにつくのだった。


……。


…………。


………………。


それは突然のことだった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


物凄い頭痛と共に深い眠りから強制的に起こされた俺は、叫び声をあげながら飛び起きる。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」


痛いなんてものじゃない。脳みそを直接手で鷲掴みにされているかのような激しい頭痛だった。涙でまともに前を見ることもできず、瞼の裏は真っ赤に染まっていた。


(何だこれ! 何なんだよ!?)


何もわからない。突然頭を誰かに殴られたのか、それとも脳に病気があってそれが突然痛みとなって現れたのか。


ぐわんぐわんする。頭の中ではガンガンと音が鳴り響き、酷い耳鳴りで自分の声さえまともに聞こえない。口からは飲み込むことすらできなかった唾液が垂れ枕を汚す。

もう俺は痛みで何も考えられなくなっていた。


そして、結局俺はただ痛いと口にしながら頭を抱えベットの上を転がることしかできなかった。


そんな時だった。


痛みで意識も朦朧としていた俺の頭に、突如として無機質な声が響いてきた。


『ワールドオーダーより抽選の結果、25歳男性、会社員、田中和彦にジョブ権限【空間魔法使い】を与えます』

『ジョブ権限【空間魔法使い】より、権能【収納空間インベントリ】の使用を許可します』


そこまで言い終わると、今度は頭の痛みが引いていく。先程までの酷い頭痛がまるで嘘だったかのように消えてしまった。


「はぁはぁ……」


だが俺はベットから動くこともできず、荒い息を吐きながらただ朦朧とした意識の中虚空を見つめていた。


(何だったんだいったい……?)


何もわからない。突然の激しい頭痛と過度な睡眠不足により今起こったことをまともに考えることもできなかった。


痛みが引いてくると、今度は急激な眠気に襲われる。眠ってからどれくらいだったのか分からないが朦朧とした視界はまだ暗いことからほとんど寝ていないことは分かる。


シャワーでも浴びたいところだったが、疲れと眠気で指一本動かせなかった。


そして、とうとう汗だくの服のまま、再び意識を手放した。




ーーーーーー。


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