浮遊感

「元気出して、なんて言えないけど。私がそばにいるからね、異子」


綾が寄り添ってくれてる。

でもその存在すら現実感がなくて。どこかはかなげで。

全て眩暈が見せる夢なんじゃないかと、思って。

家族が死んだこともきっとそうだ、そうに違いない、と期待してしまう。


けれどそんな私を置いていくように世界は展開して。

火葬が終わり、お葬式が終わり。

独りぼっちの我が家に、来てくれる一人の親友。

放心状態でうまく反応できない私に彼女もどうしていいかわからない様子だけれど、日々手を変え品を変え、話しかけてくれていた。

本当に良い友達を持った。

その気持ちにこたえたい、そう思うのだけれど。

どうも家族と一緒に私の魂も抜けていってしまったのか、私の心は何にも動かされることはなかった。


「気分転換に本でも読んだらどうかな? ほらこれ、この間おすすめした奴。シリーズで持ってきたからさ。没頭したら、ちょっとは元気出るかなーみたいな?」


そう言って綾が差し出してきたのは重そうな紙袋。


「それじゃ、私は帰るからね」


そして帰っていく綾。

いつもは綾が何を置いて言っても興味をひかれなかったのだが、その日は何かが違った。

すーっと吸い寄せられるように紙袋に近づく。

そして私は彼女のおいていった本を手に取る。


「『私は知っている』狭間跳人?」


ミステリー。

私のほとんど読まないジャンル。

本を開きページをめくる。

めくるとともに、私はその中にのめり込んでいく。

実際にあったかのような細かい事件描写、設定、登場人物。


知っている。

私はこの内容を知っている。

これは、私の眩暈が起こる前の世界の出来事だ。


私は本を持ち、駆け出す。

行先は都内。

駅で電車、いや、タクシーが最速か!


「すみません、この狭間探偵事務所までお願いします」


タクシーに飛び乗って私は叫ぶように言った。

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