謎の眩暈

「でさー、この人のミステリー小説、超面白いの。異子ことこも絶対読んだ方がいいって」


「えー。私、ファンタジー以外は読まないしなぁ」


そう言いながらポテトを頬張る。

学校帰りのファーストフード店。


「絶対面白いから! ね! 貸すから。いや、異子になら布教用の一冊あげちゃう」


「布教用って何それ」


私にミステリー小説を布教しようとしている親友の綾は眼鏡をくいっとあげ、指を三本立てる。


「本は、読む用、保存用、布教用の三冊確保は必須なのです!」


「オタクのあやにはでしょー」


無駄に甘ったるいシェイクで喉を潤しながら、私は笑う。

ハンバーガーやポテトは好きじゃないけど、こういう友達と話す何気ない時間は大好き。

けれど、楽しい時間ばっかりは続いてはくれなくて私の体にまた、あの症状が発現する。


異子ことこ、大丈夫?」


眩暈めまい

私はポテトの山の上に倒れ込む。

べたべたになる。

制服も汚れちゃう、頭ではそう思いながらも私の体は思うように動かない。

こういう時はじっと目を閉じるしかない。

自分が自分じゃなくなるようなこの眩暈の感覚が、私は大嫌いだった。


5分ほどして、やっと眩暈はおさまる。

発作が長いのも大変な部分のひとつ。


「ごめん綾。もう大丈夫」


そう言って体を起こす。

制服にポテトの油が染みている、早く帰って落とさないと。


「制服汚れちゃったし帰ろっかな……」


「あ、私送ってくよ!」


そう言ってまだ食べかけのトレーをもって、私を追いかけようとしてくる。


「大丈夫。このポテトは私がつぶしちゃったからもう駄目かもだけど、綾、ハンバーガーまだ残ってるでしょ。ちゃんと食べなねー」


去ろうとする私を真剣なトーンで呼び止めてくる綾。


「ねえ、異子。病院で本当になんでもないって言われたんだよね?」


私は心配そうな彼女の不安を少しでも取り払えるようにと笑う。


「うん。結果は問題なしって。思春期特有のものかもって言われた。じゃね! ポテトほんとにごめんねー」


そうして私はファーストフード店を後にした。

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