川越じゃなくて河越
日本と同じく武蔵に位置しているこの城下町が、夏の住んでいる場所だ。
板葺きや瓦葺きの町家に白壁の土蔵、髷を結った人々など、江戸時代の日本を彷彿とさせるものがある一方で、行き交う馬車や獣人、古代コンクリートによって舗装された街道など、異世界を実感させるものも
「不思議な街並みだなぁ。なんていうか、ファンタジックな江戸って感じ」
辰巳は物珍しそうにキョロキョロと見渡した。
「幕末を過ごしたからですかね、初めて来たのにどこか懐かしい感じがします。……それにしても、江戸と
河越への道中、ユノウは夏から倭国のことについて色々と聞いていた。
話によれば、倭国の地名や風土はほぼほぼ日本と同じであり、また江戸時代のように幕府と大名によって政治が成り立っているとのこと。ただ幕府が大坂に置かれ、
「
一応その辺のことも夏に聞いてはいたが、
「そうですね。
そんな風に話をしながら歩くこと数分。夏は、裏路地にあるこぢんまりとした佇まいの町家の前で、足を止めた。
「着きました。ここがうちの店です」
「へぇ、ここがそうなんだ」
初めて間近でみる町家に、辰巳は興味津々だ。
「さ、どうぞ入ってください」
夏に促されて、二人は店の中へと入る。
手狭な店内には、木製の長椅子が四脚置かれ、壁には料理名が書かれた木札と、粗末な神棚が飾られていた。
「急いで準備しますから、どうぞ適当に座っていてください」
夏はそう言って奥の台所へと入っていき、辰巳とユノウは神棚そばの長椅子に腰を下ろした。
「テーブルないんだね」
辰巳はキョロキョロと店内を見回した。
「そういえば、幕末の店もこんな風に椅子だけでしたね。あとは
「ふーん、そうなんだ。けどさぁ、時代劇なんかだと普通にテーブルで飯食ってたよ」
「たぶんあれは時代劇だけの話ですよ」
「へぇ」
二人が他愛もない話をしていると、台所から丸髷を結った四〇歳くらいの女性がやって来た。
「この度は娘のことを助けていただき、誠にありがとうございます。私、夏の母の
文は長椅子の上にお茶を置くと、辰巳たちに向かって深々と頭を下げた。
「どうも、あたしは冒険者のユノウです」
「俺は旅芸人の辰巳です」
二人も軽く頭を下げた。
「大したものはご用意できませんが、どうぞゆっくりと召し上がっていってください」
文はもう一度頭を下げると、台所へと戻っていった。
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