第66話
盗賊のジャスミンが注意深く足跡を追っていくと、やがて冒険者たちは、ひとつの洞窟にたどりついた。
洞窟の入り口には、一人の狼牙族の男が槍を手にして立っていた。
彼は冒険者たちに気付くと、驚いた様子で声をかけてくる。
「ワウ……!? ワウじゃないか! どうしてここに」
「おーっ、グラバおじちゃん! 生きてたんだな、良かった……!」
ワウは歓喜して、その狼牙族の男に駆け寄って飛びついた。
「生きてたんだなって……ああ、集落を見てきたのか。とにかく洞窟の中に入れ。みんないるぞ。後ろの三人は……ワウの冒険者仲間か?」
「うん、そうだぞ! 三人ともワウの大事なトモダチだ!」
「そうか。じゃあキミたちも一緒に中へ」
狼牙族の男に案内されて、冒険者たちは洞窟の中へと入っていった。
洞窟の通路を進んでいくと、やがて大広間へとたどり着く。
そこには老若男女、三十人ほどの狼牙族──人間に狼の耳とふさふさの尻尾を生やした姿の獣人族たちが寄り集まっていた。
なお洞窟の通路は、大広間の奥にも続いていて、さらなる居住区があるようだった。
ワウは大広間にいた一人の狼牙族の男──ひときわ立派な体躯と存在感を持った壮年男性を見て、嬉しそうに駆け寄っていく。
「父ちゃん……! 良かった、生きてた! 死んだかと思ったぞ!」
「ワウ……!? どうしてお前がここに」
ワウが泣きながら狼牙族の男に抱きつくと、男はそれを受け止め、軽く抱きしめる。
大広間にいたほかの者たちも、ワウが現れたことに驚いていた。
ワウは狼牙族の同胞に、旅の途中で集落に立ち寄ったことと、集落に誰もいなくて驚いたことを話した。
狼牙族の男──ワウの父親は、渋い顔をした。
「集落を見てきたのか、ワウ」
「ああ、父ちゃん。どうしてみんな、こんなところにいるんだ。集落で何があったんだ?」
ワウがそう聞いたところに、後ろからケヴィン、ルシア、ジャスミンの三人が歩み寄った。
ケヴィンがワウの父親に向かって問う。
「集落の住居がいくつか崩れていましたし、血の跡もありました。皆さんの集落は、つい最近、何者かに襲われた──それも強大な力を持ったモンスターか何かに。そんなあたりだと見込んでいますが、どうでしょう?」
「……キミたちは?」
「ケヴィンたちは、ワウのトモダチだぞ! 冒険者仲間だ!」
父親の問いには、ワウが答える。
ワウの父親はうなずくと、まずは自己紹介から始めた。
「ワウの友の者たち、初めて会うな。オレはワウの父親で、ガウという。この集落の族長でもある」
「族長……!? じゃあワウちゃんって、族長の娘さんだったんですか?」
驚きの声を上げたのはルシアだ。
それにはワウがきょとんとした顔をする。
「あれ……? ワウは族長の娘だって言ってなかったか? ていうかそれって大事か?」
「……ま、まあ、そのことはまたにしよか。いま大事なんは、それと違うし」
ジャスミンやケヴィンも驚いていたが、そこはひとまず流された。
ケヴィンらもひと通りの自己紹介を済ませると、ワウの父親は再び本題について話しはじめる。
「集落に何があったか、だったな。と言っても、お前たちが察しているとおりだ。集落がモンスターに襲われた」
「そのモンスター、強いのか? 父ちゃんや集落のみんなが戦っても勝てなかったのか?」
ワウが口を挟むと、父親のガウがうなずく。
「ああ、強い。集落のオス全員が命を捨てる覚悟で挑んでも、勝てるかどうか分からないぐらいの強さだった。だからオレたちはここに逃げてきた。ワウは『九の首を持つ大蛇』を知っているか?」
「『九の首を持つ大蛇』……? なんかあんまり強そうじゃないな」
ワウは首を傾げる。
一方、それを聞いて目を丸くしたのは、知識豊富な魔導士のルシアだった。
「『九の首を持つ大蛇』って、まさか『ヒュドラ』ですか……!?」
「ああ、長老はそう呼んでいたな」
「
「う、うーん……ドラゴンでも蛇でもないんだけど。でも下手なドラゴンに匹敵する強さの魔獣だよ」
ワウの疑問に、ルシアがいつものように苦笑しつつ答える。
と、そこに──
「族長、ワウが帰ってきたって本当か? ──おおっ、ワウ、久しぶりだな!」
洞窟の奥から、そう大声を上げて駆け寄ってきたのは、若い狼牙族の男だった。
「げっ、ウルド……」
やってきた狼牙族の青年を見て、ワウは露骨に嫌そうな顔をした。
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