第26話 廃神殿の前で

 街から一日半ほどの場所にある、廃墟となった邪神殿。


 森の奥にひっそりとたたずむその場所で、大量の食屍鬼グールが目撃された。


 それらをすべて退治してきてほしいというのが、今回受注した依頼クエストの内容である。


 街を出て二日目の夕刻過ぎ、そろそろ夜に差し掛かろうという頃に、両パーティは廃神殿の前へとたどり着いた。


 廃神殿の外観は苔むしており、石造りの建物のあちこちには無数のつる植物が絡みついている。


 今よりもだいぶ昔に建造され、今は使われていない場所であろうことが伺えた。


 ケヴィンたちはその前に立ち、もう一つの冒険者パーティと向き合う。


 相手パーティのリーダーの青年、ナイジェルが口火を切る。


「さて、それじゃあゲームを始めるとしようか。ここから先は、お互い手助けはなし。グールどもに殺されても恨みっこはなしだ」


「当然です。そちらこそ、あとで何だかんだと言い掛かりはよしてくださいね」


 険のある声で応じるのは、魔導士の少女ルシアだ。


 それにナイジェルは、やれやれと肩をすくめる。


「そういう憎まれ口は、僕への愛情の裏返しかな、ルシア? キミさえ望むなら、いつでも僕のもとに戻ってきていいのだけどね」


「なっ……!? このっ、ふざけるな……!」


「わーっ、ルシア、落ち着け? な? 気持ちはめっちゃ分かるけど落ち着いてな」


「あいつ、ルシアを怒らせるのだけは本当に達人だぞ……」


 いきり立ったルシアを、ジャスミンが羽交い絞めにして止める。

 ワウはあきれた様子のジト目で、ナイジェルらを見ていた。


 ルシアとナイジェルらとの関係については、ジャスミンやワウにも打ち明けられている。


 彼女らのナイジェルに対する感想は「クズやな」「卑怯なオスは強くてもダメだぞ」だった。


 ケヴィンは仲間たちの前に出て、ナイジェルを睨みつける。


「俺たちが勝ったら、今のようなルシアさんへの侮辱も、すべて謝罪してもらいます」


「くくくっ……。そうだね、キミたちが勝ったらそうするといい。ほら、僕たちに構っていないで、先に神殿に入ってグールどもの掃除を始めたらどうだい?」


「ずいぶん余裕ですね」


「それはそうさ。なにせ僕たちは、キミたちとは違って一流の冒険者だからね。獅子は兎を狩るのに全力は尽くさないよ」


「そうですか。その格言は間違っていると思いますけど、お言葉に甘えるとします。──行きましょう、ルシアさん、ジャスミンさん、ワウさん」


 ケヴィンは仲間たちを引き連れて、廃神殿の入り口へと向かう。

 三人の女性冒険者は、それに素直に付き従った。


「今回の少年は、うちらのことぐいぐい引っ張るな」


「いつものかわいいケヴィンも好きだけど、今みたいなケヴィンも好きだぞ」


「…………」


 一方、ケヴィンら一行を見送ったナイジェルは、その口元をつり上げてほくそ笑む。


「ああ、僕も正しい格言は知っているよ、少年。だがキミは少々まっすぐすぎる。くくくっ」


 彼の仲間たちもまた、先に廃神殿へと入っていった若き冒険者たちをあざ笑う。


「キャハハハッ! バカだよねーあいつら。頭悪すぎ~」


「へへへっ。あいつらがどんな顔をするか、今から楽しみだぜ」


「ま、ナイジェルさんとあのガキどもとじゃあ、頭の出来が違うってわけよ」


「そういうことだ。──獅子と獅子が戦うときは、より狡猾な方が勝つのだよ」


 ナイジェルは自身の首にかかった、赤い宝石が連なったネックレスに触り、虎の子のマジックアイテムがそこにあることを確認した。

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