第23話 過去の因縁
ケヴィンとルシアは、ゆっくりと街中を散歩する。
はた目から見れば初々しいカップルのデートのようにも見えるが、当人たちの心境はいかばかりか。
ケヴィンは私服姿の魔導士少女の隣を歩きながら、彼女が話しはじめるのを静かに待っていた。
しばらくして、ルシアはぽつぽつと語りはじめる。
「それは私が、田舎から出てきてすぐの頃の話です。まだ右も左も分からない新人冒険者の私に、自分たちのパーティに加入しないかと誘ってきたのが、ナイジェルさんたちでした」
魔導士の少女は、過去の出来事を思い出しながら、語っていく──
***
当時──街に出て冒険者ギルドに登録したばかりの私は、警戒心ゼロの田舎者でした。
そんなお上りさん丸出しの私に声をかけてきたのが、ナイジェルさんたちです。
先輩冒険者から声をかけてくれたのを素直に嬉しく思った私は、ナイジェルさんたちのパーティに加入することにしました。
パーティメンバーは、私を除いて四人。
さっきお店で会った四人ですね。
これに私を含めて、五人パーティでの活動になりました。
私は冒険者として、先輩たちの足を引っ張らないよう、精いっぱい頑張ろうと思っていました。
彼らとは一度、普通に冒険をしました。
私の肩慣らしのためということで、初級冒険者向けのゴブリン退治のクエストでした。
結果、これは特に問題なく終わりました。
私は不手際ながら魔導士として少しの活躍をして、パーティは無事にゴブリン退治のクエストを達成しました。
ただそれも全部、ナイジェルさんが描いたシナリオ通りだったのだと思います。
クエストの最中は、いろいろなことがありました。
たとえば、ゴブリンたちとの戦闘の最中です。
前衛を抜けてきた一体のゴブリンが私に襲い掛かろうとしたところを、ナイジェルさんがすんでのところで助けに入るシーンなどがあったのですけど。
あとで思えば、そのときの流れもだいぶ不自然で、あれも彼らが計画した「演出」だったんだろうなって……まあ、それはいいんですけど。
とにかく一度目の冒険を終えて、私たちは街に戻って最初の打ち上げをしました。
打ち上げをしたのは、かなり高級なお店でした。
ナイジェルさんが、今日は自分の奢りだと言って誘ってきたんです。
私は田舎では味わったことのない、豪華なお料理やお酒に舌鼓を打って──
あまり認めたくはないですが……正直に言って、そのときの私のナイジェルさんに対する好感度は、かなり高かったと思います。
彼の計画通りといったところでしょうか。
その流れで、私はどんどんお酒を飲まされました。
断れる雰囲気じゃなくて、飲んで、飲んで……ふらふらになりました。
ナイジェルさんは、部屋で休もうと言って、私を宿の自分の部屋に連れ込もうとしました。
そのときには私も「あれっ?」とは思ったんですけど、もう一人の女性冒険者──あの店員さんの足を引っ掛けた彼女です──も一緒について来てくれたので、安心してついていきました。
でも部屋に入ると、彼女はすぐに出て行ってしまって。
私はふわふわとした頭で、おかしいなと思っているうちに、あの男の手でベッドに押し倒されて──
そこで一気に頭が冷えました。
私は必死に彼を振りほどき、逃げ出しました。
あの状態から逃げ出せたのは、ほとんど奇跡だったと思います。
本当にギリギリでした。
ナイジェルさんも、あくまでも合意の上という体裁を作りたかったんでしょう。
あるいは一度、曲がりなりとも合意の形で事に及んでしまいさえすれば、私のような田舎娘などどうとでも落とせると思っていたのかもしれません。
いずれにせよ、私が明確に拒絶して人目につくところまで逃げ出したら、彼は執拗に追いかけてはきませんでした。
ただ後日、奢った料理の代金を払えとか、しゃあしゃあと言われましたけどね。
ふざけるなと思ったけど、あんなやつに奢られたままなのも嫌なので、耳を揃えて払ってやりました。
もちろんその後は、彼の冒険者パーティとは関わっていません。
私がワウちゃんやジャスミンさんと出会ったのは、そのすぐ後のことで──
***
「──というようなことがあったので、私はあの男をクソ野郎だと思っています。……ねぇケヴィンさん、今の話を、痴情のもつれだと思います?」
ルシアからそう問われて、ケヴィンはぶんぶんと首を横に振った。
少年は怒りをあらわにする。
「酔い潰して無理やりなんて、そんなのほとんど強姦魔じゃないですか。捕まらなかったんですか、あいつ?」
「はい。ですから向こうの主張は、あくまでも合意の上の行いだったと。……実際にも未遂ですし、酔っていたとはいえ男の部屋までついていったなら、合意があったと受け取られても文句は言えないと」
「……下衆ですね」
「──ですよねっ!」
ケヴィンのその言葉に、ルシアが少年の手を取って、嬉々とした表情を浮かべた。
ケヴィンは先輩冒険者のその反応に戸惑った。
ルシアもまた、自分が少年の手をつかんでいることに遅ればせながら気付いて、みるみるうちに顔を真っ赤にしてから手を離す。
「……す、すみませんケヴィンさん。分かってもらえたのが、嬉しくて……」
「は、はい、大丈夫です。というか、えぇっと……はい」
ルシアさんの柔らかい手にドキドキしました──などと正直に言うわけにもいかず、少年は言葉を濁したのだった。
さて、この日はこれ以上に、特筆すべき出来事は起こらなかったのだが。
この話の因縁は、後日に持ち越されることとなる。
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