第31話 ナマズ、決着?
「おい、ナマズ野郎。お前の敵はココだ!!」
俺は囮のため、家と家の間から姿を出す。
するとゾーオは鉄塔の上で体を反転させ、こちらを見つめた。
その後すぐ、蒼白く発光する。
「来る──!?」
咄嗟に建物を盾にした。
ゾーオが放っただろう一撃は、俺が姿を見せた近くの家、その庭にそびえる木に落ちる。
そこそこ太さのあった木の幹は見事に縦に裂け、断面からはメラメラと炎が上がった。
衝撃で枝の一部はかなり遠くまで飛び、見事に木っ端微塵になっている。
「……間一髪ってところか、近くに居たらただじゃ済まなかったな。それにしてもあのゾーオ」
あそこから降りてくる気配がない。
鉄塔の上で、這うように体の向きこそ変えるが、大きく動く素振りも見せないけど──。
「でも、それなら好都合だ」
周囲を見渡し、飛びながらゾーオを迎え討つ場所を探す。
時折体を晒し、ビルや住居の間を縦横無尽に飛び回った。
「あそこなら!」
目標地点を見定め、俺は目的地に向け地面スレスレを飛行する。
背後ではなお、轟音と共に次々と雷が落ち、恐怖で全身の毛が逆だっているのが分かった。
「こっちだって何も考えてない訳じゃ無い、あそこまで近づけば!」
突如、俺の行方を遮るように落雷が落ちた。
そして落下先の電灯を直撃し、土台のコンクリートは爆ぜ、電灯が倒れて進路を塞ぐ。
「い、いてぇ、死ぬところだった……」
吹き飛んだ細かいコンクリートが体をかすめたものの、間一髪でそれを避け目標としていた地点につく。
そしてその場で停滞し、右手を上げ上方のゾーオに狙いを定めた。
「相澤、今だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺達しかいない魔法世界に、声が反響する。
それから少し立つと、バイパスを通し次々と魔力が流れ込んできた。
良かった、俺の声はなんとか相澤に届いたようだ。
しかし、魔法を放つまでの短い時間。ゾーオがこの隙をまんまと見逃してくれる訳もなく──。
「やばっ!?」
一筋の雷光が、無慈悲にも俺へと向け放たれた。
「なんてな、天の時は地の利に如かず……。雷ってのは少しでも高く、細いものに落ちやすいんだ、覚えとけ」
ゾーオから放たれた雷は、俺には当たることはなかった。
こちらの思惑通り、ゾーオと俺の間に
当たらなかったと知り、ゾーオは再び体に稲光を纏うのだが──。
「残念だが、俺のほうが早い。それに下から上空に向かって放てば、周囲に被害はでない。遠慮はなしだ!!」
構えた右手から、過去一の途方もない魔力の奔流が放たれる。
近くのビルを巻き込み、大気を焼き、空を光で埋め尽くす程の圧倒的な一撃だ。
それは鉄塔もろともゾーオを一瞬で消滅させ、黒煙を上げる。
「ちょぉぉぉぉぃ!?」
が、その衝撃で俺は見事に吹き飛ばされていた──。
そして地面にぶつかる寸前、翼をはためかせ、なんとか激突を免れる事がに成功する……。
「や、やばかったー! こちらからの攻撃で死にかけたぞ!! 相澤のやつ、また手加減失敗したな?」
それでもまぁ、怖い思いをしていた中で頑張れたんだ。お咎めは無しにしてやらないとな。
俺は戦況報告と安否報告のため、バイパスを辿り相澤が居る場所へと戻る。
「ただいま、ゾーオ倒して来たぞ」
先程の集合団地の部屋に、窓から侵入した。
すると、俯き、自分の両手を青ざめた表情で見つめる相澤が居た。
「……相澤?」
恐怖からまだ立ち直れていないのか、彼女の様子がおかしい。
怯えたような表情をした彼女の、震える唇がゆっくりと開かれた。
「……ノ、ノアちゃん、あのね。さっきの魔法、あれでも目一杯手加減できたの」
彼女の言う意味が、突然の事でイマイチ理解できなかった。
しかし小刻みに震え、窓から空を見上げる相澤につられて、俺も空を見上げると、
「どうしよ? 私、魔力強くなっちゃったみたい……」
「おぃおぃおぃおぃ……。マジか?」
上空にあるはずの結界が、大穴を開けたように無くなっていたのだ。
そして失った結界の真上だけ、不自然に雲が一切ない。
「つまりなんだ。さっきの魔法で、結界ぶち抜いちまったって事か?」
俺の呟きに、誰からも返事は帰ってこなく、その後しばらく沈黙が続く。
そんな中、見上げる初夏の夜空に浮かぶ欠けた月が、何処か笑っているようで不気味に見えた……。
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