後日談 2

 二体目のゾーオを倒した翌日、その昼下り。

 相澤の部屋には、彼女もシロルもいなく俺一人。

 窓から差し込むポカポカ陽気が、眠気を誘う。

 そんな穏やかな時だった……。


「──ねぇねぇノアちゃん、あのねあのね?」


 自室のドアを勢いよく開け、相澤が姿を現した。

 穏やかな時間は、彼女の登場と共に呆気なく

終止符を迎えたのだ。

 それを同じくして、俺はと言うと……。


「ちょ、ちょっとー、どうして急に耳を塞ぐの!?」


 うつ伏せになり、両手を頭の上に乗せ耳を塞ぐ。

 そんな断固として聞かない俺の姿勢に、相澤から不満の声が漏れた。


「もうカンベンしてくれ、昨日だってゾーオ倒した後に三時間だぞ! 日輪成分過剰なんだよ、夢に出るわ!!」


 最近、本当に夢の中で、俺とは別の俺が現れるようになってきた。

 きっとノイローゼの一種だ、そうに違いない。


「違うよ、カナちゃんの事。あの後どうなったか、さっき連絡があったんだ」

「あ、昨日の?」


 日輪おれの話題じゃなければ、話は別だ。

 耳から手を離し、相澤に向かってお座りをする。

 その見事な切り替えの速さに、相澤も若干涙目だ。


「良いもん良いもん……」

「まぁまぁ、そう拗ねるなって」


 剝れる相澤が妙に可愛くて、つい笑ってしまう。

 当たり前の、何処にでも居る普通の女子高生がそこにはいた。

 未だにこの子が世界を救ってるとか、夢でもみているかのようだな。


「それで鈴木はなんだって?」

「あ、うん。命や後遺症の心配はなし。今日の朝には全部の検査も終わり、何事も無く退院できたって」

「そっか。良かったな、相澤」

「うん!」


 彼女の表情に、一瞬で色鮮やかな花が咲いた。

 相澤のやつ、本当に鈴木を心配してたからな。


「それでね、退院して直後にメールがあったみたいなの。驚くことに、一度落ちた会社から連絡が来てね、無事に仕事が決まったんだって」

「えっ、そんなことってあるのか?」

「うん、驚きだよね」


 これはまた、シロルの奴が裏で根回しでもでもしたか?

 まぁ、ハッピーエンドなら文句はないんだけど。


「それでね、実は続きがあるんだけど……」

「まだあるのか?」

「うん……。実はあの二人ね、お付き合いすることになったんだって」

「おぉ、そうなのか!!」


 めでたいことが目白押しだな。

 それにしても、凄いな鈴木。

 きっと、彼女の気持ちが通じたんだろうな……。


 そんな事を考えていると、


「どうした、相澤。浮かない顔して?」


 俺は、相澤の表情が何処か曇っていることに気付いた。

 何とも言えないような……。

 例えるなら、喉に何かが引っかかっているような顔をしている。


「あ、もしかしてあれか。先輩ヅラしてたのに先を越されたのがショックとか?」

「うっ……」

「図星みたいだな」


 そうだよな。あれだけ偉そうに『先輩である私にまっかせっなさーい』っとか豪語してたのに、その翌日には追い抜かれてるんだから立場がない。

 でもそんな所が、妙に相澤らしいと言うか。


「本当の事を素直に話して、今度は相澤がアドバイスを貰ってみたらどうだ? 『師匠、私に正しい恋愛の攻略法を教えてください』ってさ」

「もーうぅ、ノアちゃんが意地悪言うー」


 そう言って、相澤が俺を追いかけてきた。

 それに捕まるまいと、部屋中を駆け回る。


 こんな感じなら、追われるのなら悪くはない。

 

 最初の頃では、こんなことは考えれなかっただろう。

 しかし相澤との生活は、俺の彼女に対する心の壁を、少しずつではあるが、取り除いているのかもしれないな。

 ──って、本当にそれで良いのか、俺よ!

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る