第21話 実験
俺は、いつから着けられた……?
額には、汗が流れる。
知らぬが仏、触らぬが吉なんて言葉があるが、確かに気付かない方が幸せだったかもしれない。
はぁー、まったく。
便利なのか分からない目を手に入れちゃったよ。
「まぁ、今までの様子を見るところ、ほかっておいてもさほど害は無いよな?」
跡こそ付け回すが、彼女のストーキング癖は良識あるものだ。
私生活を脅かす程のものではない……。
「っと、信じたいけど」
しかし今後、エスカレートする危険性もある。
今のうちに最低限、彼女の危険性を熟知しておいても良いかもしれないな。
「よし、試すか!」
俺は、一つ実験をする事にした。
実験のテーマは題して『お外にいるときの、相澤の収集癖!』
方法は簡単だ。
一樹からもらったコーヒーを飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てる。
そして彼女がいる方とは反対へと進んだ。
その後、一本目の曲がり角を曲がり、すぐに立ち止まる。
今度は俺が、相澤の動向を壁からコッソリと覗くことにしたのだ。
「動き出したか……。相澤、先輩は信じてるからな?」
彼女は交差点の壁から顔を出し、きょろきょろと辺りを見渡す。
その後、俺の方に向かって来たかと思うと、歩みはゴミ箱の前で止まった。
ここまでの展開は、非常〜に残念ながら予想通りと言えよう。
手がゆっくりとゴミ箱へと伸び、触れる瞬間引っ込めた。
きっと、彼女の中では何かしらの葛藤があったんだろうな?
その行為を、三度ほど繰り返していた。
この間、約十秒。
最終的に、謎の誘惑に打ち勝つことができたらしい。
伸ばした右手を、左手で押さえるように胸元で握りしめ、俺がいる方へと小走りで走り出す……。
よし! よく我慢した、偉いぞ‼
……っと、言ってやりたい気持ちもあるが、そもそもこの実験、彼女に迷いが見えた時点で駄目なんだよなー。
結論“相澤、お前はやっぱりやばい奴だ”
俺も、自分が捨てたものを、彼女が家でクンクンや、ペロペロしてる所など見たくはない……。
ってことは、することは一つ。
「急ぐか、相澤の運動神経なら巻ける」
見失えば、諦めもつくだろう。
そしてストーキングさせなければ、収集もできまい。
俺は、相沢が居る方角の逆へと向かい走り出した。
運動音痴な相澤だ、走れば巻くことなんて造作も無いだろ。
一本道を十メートル程走ると、路地はさらに狭くなる。そして、
「おっと」
足元の段差に気付き、俺は飛び越えた。
そしてさらに少し走り、人通りの多い道へと向かう。
「って、ちょっと待ってよ──!」
慌てて立ち止まり、来た道を戻った。
相澤の、前の見にくいあんな髪型じゃ、先程の段差で転ぶんじゃないか? っと思ったのだ。
そして案の定、彼女は先程俺が飛び越えた段差に足を引っ掛け、眼の前で転ぼうとしていた──。
「──相澤!」
地面に膝をつく直前、俺は彼女の手を取り、引き寄せるように抱きかかえる。
何とか俺は、彼女が転ぶ事を未然に防ぐ事が出来たのだった。
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