第三章 変化、成長?
第19話 休み
「どうしよう……。どうする? あぁーもう、どうしたらいいんだよ!」
相澤が少しだけ不在の彼女の部屋。
俺は猫の姿のまま二足歩行で、頭を抱え室内をウロウロと歩き回っていた。
その原因は、昨日届いた家族からのスマートフォンへ届いた一文。
『日曜の夜には帰ります』
そう、母さんと妹。それと知り合いに預けていた飼い猫の占めて二人と一匹が、急に家に帰ってくると言うではないか。
これが
今日は金曜日、ってことは明後日には帰ってくる。どうしたら……。
「あからさまにどうしたにゃ、思春期特有の色恋沙汰の悩みかにゃ? 命知らずにも程があるかにゃ」
「違うわ! ってか、色恋沙汰の悩みだとしたら、なんで命知らずになるんだよ?」
シロルは俺の問に呆れ顔を浮かべ、机の上にある、俺が偶然が写り込んでいる相澤の写真を指差した。
「……理解した。じゃなくて、母親と妹が帰ってくる事になったんだよ! どうしたらいいんだ、後輩の女子高生の家に住み込んでるなんて言えないぞ」
家族には、魔法少女の使い魔をしてるなんて言って無い。
というか、言えるわけもない。
しかも付きっきりで正体を隠し、女子高生の私生活に潜り込んでると知られれば、間違いなく変態扱いされて
いや、それどころかボコボコに殴られ警察に突き出されるかもしれない。
「それにゃら住み込みのバイトってことにしとけばいいにゃ、アリバイ工作もこっちで手配するにゃよ」
「本当か、何とかしてくれるのか!」
良かった、本当に良かった。
母さんはともかく、妹の
剣道の有段者だし、怒らせると本気で竹刀で殴られるからな。
「それといい機会にゃ、たまには使い魔を休んで羽でも伸ばすにゃ」
そう言うと、シロルはどっからかともなく茶封筒を引っ張り出し、それを俺へと放おった。
「それは助かるけど、この封筒は何なんだ?」
「金にゃ、あんさんをタダ働きさせてたのがバレて上に怒られにゃ。『多少の休みと金だけは払っておけ、何があっても後腐れの無いように』って言われたにゃ」
「借金の件もあるのにいいのか? ってかそこはオブラートに包んで説明してほしかったな」
早速俺は、封筒を手にした。
んっ、硬化の音がしない? それに思ったより厚みが……。
何となく違和感を感じ、つい中身を確認する──。
「こ、こんなに!?」
驚くことに、中身は優に三十万はあるだろう札の束だった。
「あんさん、自覚が薄いようにゃけど命がけの戦いをしてるにゃよ? 命張って稼ぐ額としては、決して高い方じゃないにゃ」
「そっか……。そういうもんか」
シロルが言うように、命を代価にと考えれば多いとは言い難いのかもしれない。
しかし考えてみれば人生初給料だ、それだけで嬉しくて顔がついニヤけて──はっ!? 階段を登る音が!!
誰か部屋のドアを開ける前に、俺は全身のバネを巧みに操り、封筒をベットの下に投げ飛ばした。
その直後、黒や紺色をした余所行きの衣装に身を包んだ、前髪を下ろした余所行きの相澤が姿を現す。
「ハァハァ、あぶねーギリギリ間に合った」
現金抱えた姿とか、不審でしかない。
人だと怪しまれる要素は、少しでも少ないに越したことはないからな。
「お、おかえり相澤。そ、その格好はお出かけしてきたのか?」
「違うよ、今から行くの。せっかくのお休みで時間があるし、ノア君家……。何となく少しだけ外をブラブラしようかなって思って」
「お、おう。誤魔化したみたいだけど、ほとんどゲロっちゃったな。ってか、やっぱ家まで知ってるのかよ……」
流石と言うべきか、やはりと言うべきか。
むしろ最近、この程度のことで動じなくなった、自分のほうが驚きだ。
「あっそうだ、俺二、三日お休みもらうから、しばらく留守にするな」
せっかく頂いた休みだ、普通の生活を堪能したい。
猫からぬ思考だが、一応報告だけはしないとな。
急に居なくなって心配をかける訳にはいかないし。
「そうなの? わかったよ、おやすみ楽しんで──」
コケた、コードに足を引っ掛けて盛大にコケた……。
話しながら外出の準備をする相澤は、見事に充電器のコードにつまづき、顔からベットにダイブした。
ベットの上とは言え、不意の出来事。
「うぅ……。いったーい」
っと、デコを抑えて立ち上がる。
「なぁ、前から思ってたんだけどその前髪、長すぎないか? 前見にくいだろ」
「あーうん、でもこれなら相手から見てるのバレにくいし、見放題……。じゃなくて、私人見知りだから」
「なぁ今日、会話対応の警戒心薄くないか? 雑さが目立つぞ?」
それだけ互いの距離感が縮んだ証拠かもな。
「…………」
って俺よ、ストーカーとの距離縮めてどうするんだ……。
「あ、電車に遅れちゃう! それじゃぁノア君、行ってくるね」
「あぁ、気をつけて。あと、程々にしてやってな?」
相澤はハンドバックを手にすると、口元を緩め俺の家へと出かけていった。
あっ、そう言えば人間の姿の俺は制服のままだったな。
悠長にしてる場合じゃないな、相澤より先に家につかないと──。
「さて行くか。じゃぁシロル、後は任せた」
俺は現金の入った封筒を抱きかかえ、窓を開けて透き通る青い空へと羽ばたいた。
シロルに「楽しんでくるにゃ」っと、見送られながら。
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