君の音を聞かせて
上高地 日時
第1話弾けないコ。
ある秋の日、俺は昼休みにいつものように昼寝をするためにピアノ室のグランドピアノの側板に寄りかかった。少し肌寒くなってきたな・・・明日はブランケットを持ってきたほうがいいかも知れない。こんな事を考えているうちに俺の瞼は重くなり、夢の中へと入っていった。
「・・・のー。・・・あのー。」
誰かの声によって俺は起こされた。片目を開けると青の上履きを履いた女子生徒が控えめな声で俺に話しかけてきていた。ピアノを弾きたいのだろう。
「弾いていいよ。」
俺はそれだけ言ってまた目を閉じた。青の上履きってことは・・・同学年か。そもそもピアノ室に人は余り来ないのに1年が来るなんて意外だな。しばらくしてトムソン椅子を引く音がしたがピアノの音が一向にしない。俺は不思議に思って目を開けて彼女の手元を見た。すると彼女の手は震えていた。あぁ、そっか。彼女は『弾けない』のか。立ち上がると彼女は驚いたように俺の方を見た。
「君、何組?」
「E組・・・・・です」
驚いた。まさか同じクラスなんて。俺は彼女の音が聞きたくなった。鍵盤の上に置かれている彼女の手に俺の手を重ねた。
「弾くよ。」
俺はそう言って人差し指に少し力を加えた。
「えっ」
彼女は少し驚いたようだったが、手を引っ込めたりはしなかった。
ポーン
俺が手を離すと少しして、彼女は1人で鍵盤を押した。
ポーン
俺は『彼女の音』を聞いて驚いて
「君の音はガラスみたいだね。」
思わず俺はそう口にしていた。
「ガラス・・・ですか。」
「そう。ねぇ、君・・協力してくれない?」
俺は彼女の音を聞いて興奮していた。研ぎ澄まされたキレイな音。そして彼女の音にはピアノを楽しんでいるような弾きたいという想いがあった。俺は彼女のピアノに惹かれた。
「わか・・・りました。私にできることなら。」
彼女は少し不安そうに言った。
「君・・名前は?俺h・・・・」
「
彼女が優しく微笑んだような気がした。何故俺の名前を知っているんだろう。
「同じクラス・・・ですよね。ホームルームに・・・遅れてきて、出席だけとって後の授業はほとんどいなくて・・・印象的なので・・覚えてます。」
な、なるほど。だいぶ悪い覚えられ方をしてるんだな。んまぁ・・当たってるけど。
「あの・・・協力って何をすればいいんでしょう・・・」
「あぁ、言ってなかったね。一緒にピアノ部を作ろう」
ピアノ部はこの高校に4,5年前まであった伝説の部活で、実力はあったものの部員不足で廃部になったらしい。
「ピアノ部・・・ですか。でも・・・私・・・。」
「わかってるよ。弾けないんでしょ?いいよ。俺が君を変えるから。」
俺は彼女に部活申請書を渡した。
「部長と副部長は後で決めるから取り敢えず部員のところに名前書いて貰える?」
彼女は早すぎる展開に少し戸惑っていたがしばらくして「書くもの・・・ありますか?」とだけ言い、俺がボールペンを渡すと整った字で俺の名前の下の欄にサインした。
『部員 1−E 黒宮 時雨
1−E 綾瀬 水澄』
「よろしくね、綾瀬さん。俺のことは時雨でいいから。」
「よろしくおねがいします。えっと・・時雨・・・君。」
こうしてピアノ部2人目の部員が決まった。
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