第6話 七色の飴

 これは、私の母が実際に経験したお話です。


 私の母には妹がいました。

 でも、その妹はこの世に生まれてくることができませんでした。

 母の母――つまり祖母は昔からおっちょこちょいな人で、臨月を迎えたある日、階段から落ちてしまったのだそうです。お腹の中の子は、その時に亡くなってしまいました。


 それから一年後、母は体調不良に悩まされました。当時まだ小学校三年生だったそうです。

 毎日割れそうな頭痛と高熱が続き、祖母は慌てて病院に駆け込みましたが、ただの風邪と診断されるだけ。処方されてもらった薬を飲んでも一向によくならず、むしろ悪化するばかり。

 色々な病院をはしごした結果、母は入院することになりました。


 しかし、総合病院で色々な医者が診ても原因は不明で、どこが悪いのかまったくわかりません。長く続く熱に母は幼いながら、窓の外に降る雪を見て、



「この雪を見るのが最期のような気がする……」



 そう悟ったそうです。


 祖母はその間にもあちこちを駆けずり回り病気のことを色々と調べたそうですが、医者にもわからないことを素人がわかるはずもありません。ついには、医術よりも霊的なもの、占いに頼るまでになりました。


 すると、ある占い師のところに相談に行った時のことです。



「あなたの娘さんに、赤ちゃんが憑いている。自分も生まれたかったと泣いている」



 流産した話などしていないのに、その占い師はそう言いました。そして、赤ちゃんの悲しみを鎮める方法を教えてくれたそうです。



「七色の飴を買って、神社にお供えしなさい」



 その占い師が言った神社は、まさに祖母が階段から落ちた神社だったそうです。祖母は「この人は本物だ」と確信し、言われるままに七色の飴を買って神社にお供えしました。娘の快復を祈ると共に、自分のうっかりで死なせてしまったもう一人の娘さんに何度も謝りながら。


 すると、その日の晩に「自分なら治せるかもしれない」と言うお医者様が母の前に現れたそうです。


 そのお医者様は改めて色々な検査をした結果、ついには原因を突き止めました。

 幼い母を苦しめていた病気は、今で言うところの「髄膜炎」だったのですが、当時の医療ではわからなかったそうです。


 時間はかかったものの、完治してすっかり元気になった母は命の恩人のお医者様に何度も何度もお礼を言って退院しました。

 この一件は、ただの病気だったのか。それとも霊的なものが関係していたのか。祖母にも母にもわかりません。


 祖母が会った占い師にもお礼を言いに行こうとしましたが、誰に聞いても「そんな人は知らない」と言われてしまい、その占い師の人は二度と見つからなかったそうです。


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