第3話 ある意味こわい話

 可愛い可愛い我が子が記念すべき一歳の誕生日を迎えて数日。

 実家からかかってきた祝いの電話に、私は気持ちが沸き立っていた。


 赤ちゃんが生まれて、その子がすくすくと元気に育つ。当たり前のように思えるけれど、それが当たり前じゃない場合もたくさんある。我が子が元気に育ってくれる日々は大変だけど幸福で、何より有難いことだった。


 母からの電話に受け答えしながら、晩ごはんを食べる我が子に目を向ける。

 すると、幼児用の椅子からずるずると抜け出して、テーブルの上に四つん這いになって上がっていた。きゃっきゃっと楽しそうに笑いながら、作りたての納豆の皿に手を突っ込んだ。ねちゃねちゃと、まるで石鹸で手を洗うように両手に納豆を擦りつけていく。



「……母さん、ごめん。今ちょっとマズいことになってるからあとでかけ直すね……あっ」



 すると、今度はぬるくなった味噌汁で納豆まみれの手をじゃぶじゃぶと洗い始めた。可愛い可愛い我が子は相変わらず満面の笑みだ。味噌汁がぬるくて本当によかった。全然よくないけど、そこだけは本当によかった。



「お祝いのもの? いいよ、それは――……あっ! ま、待って待って! お願い、ダメ! それだけは!!」



 次に我が子が目を付けたのは、私がついさっきまで口をつけていたグラスだった。無色透明のそれは、やめて、だってそれ水じゃなくて――



「それだけはダメ! 焼酎だから――――ッ!!」



 慌てて受話器を手放して駆け寄るものの、時既に遅し。

 可愛い我が子は焼酎を一気飲みしてしまい、即座に噴水になった。


 吐き出してくれたからよかったようなものの、もしあのままだったらと思うとゾッとする。

 もちろん、この後すぐに病院に駆け込んだのは言うまでもない。


 小さい子供からは、決して目を離してはいけないということを学んだ。


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