Vecome Real
マスターキー
第1話 コネクト
雨が降っている…冷たい。
目が覚めたとき、記憶が消えていた。わかるのは、自分が生きていることのみ。それ以外は何も思い出せない。
まるで、自分のいるべき世界とは違う世界へ迷いこんだよう。
硬い灰色の地面と、高い灰色の雲に挟まれている。そして背中には、ひっそり佇んだ灰色のビルの壁。
誰かが歩いてくる。寒さで足に力が入らず、壁にもたれかかることしかできない。その人は俺に手を差し伸べた。あたたかそうな手。俺はその手を握った。
「あったかいぃ…むにゃむにゃ」
「ちょっと…土日は少なくとも9時には起きなさいっていつも言ってるでしょ!」
「わぁぁあ!すみませんでしたぁ!」
「また暖かい手と握手する夢見てたの?何回目よ。」
「わかんないよ…てか、本当に琴美じゃないの?」
「違うっての!それより早く顔洗って、ご飯食べて。そしたらすぐに勉強始めるから!」
「は、はぁい…ッタク、ソンナニドナラナクタッテ」
「なに?」
「なんでもないです!」
俺の名前は「
なんで曖昧なのかって?なんせ俺には記憶がないもんで。だから名前も仮だ。
で、朝っぱらから騒いでたのは「
普段は高校に通ってるんだけど、休みの日は、記憶がない俺に勉強を教えてくれている。
今日やるのは、「中学校」で習う国語の勉強らしい。他の「数学」とかより好きだから助かる。まぁ、やるつもりはない。
「ほら!何とろとろやってんの!?早くご飯食べて!」
「はぁい」
俺は3年前、この「神河家」に拾われた。話によると、道端でうずくまっていたところを桜が見つけ、ひとまず家に連れ帰ったらしい。理由は「その時はイケメンに見えたから」だと。今は別になんとも思ってないと言ってる。
「いただきます」
「ちゃっちゃと食べてよね。予定が詰まってるんだから。」
「桜。そんな急かしちゃだめでしょ?喉にご飯つっかえちゃったらどうするのよ〜。」
そういって俺を擁護してくれるのは、桜の母親である「
「でも、流石に高校までの勉強は教えないとこれから先が大変じゃん。それに、休みの日くらいいつもより〈バーチャルコネクト〉やりたいの。この間、休日でも1時間しかやってないこと笑われたんだから。」
「私はそれくらいでいいと思うけどね。お母さんの若い頃なんか…」
「はいはいわかったから!もぉ〜、なんでみんなこうも…うぅ!」
〈バーチャルコネクト〉。それは、今世界で大流行しているスマホのアプリだ。
〈バーチャルコネクト〉を開くと、仮想世界へ行くことができる。専用のゴーグル等も必要になるが、さほど高くない。それに、たとえ値段が高くとも、買い手が途切れることはないだろう。なぜなら、やりたいことが何でも体感できてしまう夢のようなアプリだから!
〈バーチャルコネクト〉には、様々なシステムがある。
例えば、プロのサッカー選手になりたいとする。そういうとき、仮想世界内のサッカースタジアムに行くと、なんと現実のサッカー選手とともに試合したり、自分ならではのチームを組んで対戦したりすることができるんだ。
もちろんスポーツ以外にもアイス屋さんになりたければなれるし、チョイ悪の人向けに「スプレー塗りたくってもいいゾーン」があったりする。そう、文字通り、不可能はないのだ。
その中でも特に人気なのは〈バーチャルクエスト〉。
仮想世界で勇者になれるという、みんなの願いを叶えたかのようなシステム…らしい。他のユーザーとバトルロワイヤルができるモードもある。こっちのほうが人気。
ちなみに、全ユーザーの8割以上はこの〈バーチャルクエスト〉をプレイしている。あ、例に漏れず桜もやっている。
俺はなんか…やっててもそこまで爽快感を感じない。理由は知らん。
「ふぅ…ごちそうさまでした。」
「お、完食完食。えらいわね刀也くんは」
「普通でしょ。さ、早く勉強するわよ。」
「はぁ…」
「はぁって、あんたのためにやってんだからね!ほら、いくわよ!」
「あ、ごめぇん、その前にトイレへ…」
「…早くしてよ。部屋で待ってるから。」
「はぁい」
俺はそそくさとトイレへ行く…ふりをしてそのまま玄関へダッシュ!
ガチャン
「ん?あ!逃げた!あいつ!」
「ま、1日くらい許してちょー!」
俺はそのままダッシュで遠くまで逃げた。
ひゅ〜、危なかった。たまにはこんなことしてみるのもいいな。
俺達が住んでいる家は、国の最重要開発都市「
最重要開発都市なだけあって、相当技術が発展していて、車の代わりにみんな「ホバービークル」とか「エレクトロバイク」っていうのに乗っているし、スマホも、普通の技術の2世代くらい先を行っていると聞いた。
風景は、渋谷ってところの交差点付近をめちゃめちゃ近未来的にした感じ、らしい。
そんな「新空都」にある一番ビッグなものは〈バーチャルコネクト〉の開発元である「エターナルテクノロジーコーポレーション」の本社だろう(略してETC)。見学ブースがあったりするので、せっかくだし、見物してみよう。
そう思ったとき、ザザッ、と目の前にテレビとかによくある砂嵐のようなものが広がった。そして次にそこから何か飛び出してきた。
「コレガ…現実セカイ…」
なんだ?この2頭身のモンスターみたいなのは?
「グァァァァ!」
急に雄叫びを上げ、口からビームを発射した。そのビームは周りのものを破壊する。
「きゃぁあ!」
「うわぁぁあ!」
周囲にいた人たちが逃げ惑う。そこにパトビークルが到着した。流石は「新空都」。通報から到着までのスピードが速い。
「動くな!警察だ!」
「ン?ナンダ?」
「警察だと言っているんだ!きぐるみを脱いで、武器をおけ!」
「キグルミ?ブキ?ナンダソレ。」
「とぼけるな!それは〈バーチャルクエスト〉の敵キャラのきぐるみだろ!」
「キグルミ、ジャナイ。デモ、バーチャルクエストカラキタノハ、ホント。」
「つべこべ言わずに…」
「ウルサイ。チネ。」
そういうとまた口からビームを放った。そのビームは警察をあとかたもなく消し去る。どうなってんだよ…
「ン?オマエ?ナンダ?」
俺に言ってるのか?…いやだ、死にたくない!
「う、うわぁぁあ!」
「マテ」
バリバリバリ、とビームが地面をえぐる。俺は必死に逃げる。
「はぁ、はぁ…うわっ!」
俺は段差に躓いて転んでしまった。その拍子に、ポケットから先端を取ったUSBのようなものが転がり出る。
「ナンダ、ソレハ?カッコイイナ。」
これが何なのかは俺にもわからない。3年前、桜に拾われたときにはすでに持っていた。桜のものでもないらしい。でも、捨てちゃいけない気がして、ずっと肌見放さず持っていたのだ。
「これは…渡さないぞ!」
「ソウカ。ナラ、チネ。」
「えっ」
そういうと俺にビームを放ってきた。もう…お終いだ…
「うぐっ!」
突如、ビリィッ!という電気が走るような感覚と同時に、USBのようなものが俺の胸に刺さった。そして、それはビームを打ち消し、俺の体内へと入っていった。
「ナンダト。」
「うっ!な、何が起きてるんだよ!」
「Program was started.Say connect.Say connect.Say...」
謎の音声が流れ始めた。せい…こねくと?「セイ」は言うって意味だから…こねくと、って言えばいいのか?
「モウイチドダ、チネ。」
またビームを放ってきた。このまま死ぬより、言ってみて何かが起こることに賭けたほうがいい!や、やるしかない!
「こ、コネクト!」
「Success」
ピカーン!と胸が光る。と思ったら全身の服が変わる。マジでなんなんこれ!
どうやら終わったらしい。
ビルのガラスで自分の姿を確かめる。近未来的な、フード付きの青いラインが入った長いコートを羽織り、顔にはなんかかっこいい仮面がついている。
ピピピッ、という電子音が鳴り、視界にこれまた近未来的なホログラフが表示される。
「それでは、チュートリアルを開始します。まずは武器を取り出しましょう。〈セレストエッジ〉と言ってください」
突然、チュートリアルが始まった。いきなりだが、これをやらないと殺られるということはわかった。だったら従う他ない。それに、もしかしたら何か記憶を思い出せるかもしれない。
「セレストエッジ」
シャキン
俺は、戦うことを決意した。
「ん?」
「どうした?」
「現れたぞ。始まりの男、〈ビギンセレスター〉が。」
「おぉ!ついに、例の計画を本格的に指導させるときが来たな。」
「あぁ。この都市全体を巻き込んだ…とっておきの計画がな。」
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