3.0歳からの英才教育です

赤ちゃんになって数ヶ月。


意思疎通が泣くのみ!これには苦労した。前世で、子供が泣いてるのにお母さんはどうして分からないのかしらなんて言うおばさんがいたわね。


これはお互いに無理よ!

超初対面で性格だって好みだって分からないんだもの。


前世の記憶があるから私ははっきり見えるようになった優しいお母さんを友達みたいに育児ウツになんてさせないと誓ったわ。前世で何か起こったら私がこうやってお母さんだったかもしれないんだもの。


「ハリエッタは穏やかで手のかからない子ね」

「生まれる時にたっぷり心配かけたから私達を泣かせるのは満足したのかな?なんてなあ。わはは」

「ハリエ〜」


ふくよかで優しい乳母がお腹いっぱいにさせてくれた後のベッドの中。

家族の優しい声が聞こえて顔が見える。

手足を動かして、自分がどんな顔をしてるのかも分からないまま。


「笑ったの〜お母様よ」


「なんてかわいいんだろう!お父様だよ」


「これはあなたのお兄様」


お父様とお母様。まだ舌足らずの高い声で話しかけてくるだけの将来これは美形になる!顔の小さなお兄様。


いずれ話せるようになったらふさわしい言葉を使わなきゃいけないのよね。

お嬢様言葉、私に似合うかしら。

使いこなせるかしら。


この家族の元に生まれた幸せをじーんと噛み締めつつ、あのパーカー姿の少年が天井に逆さまに腰掛けてるのが見える。

ルーベルンは家族団欒の時はこうやって黙ってくれる。

私がうとうとして目を閉じる仕草をすると、お父さんの手がとんとん、腹筋なんて全然ないお腹を優しく触ってきた。




「赤ん坊が可愛がられてる姿を見てる分には、僕も人間界に来た甲斐があると思います。幸せは見ていて悪い気がしない」


家族が私は眠ったようだ、といなくなった後ルーベルンが私にしか聞こえないんだろうエコーのかかったような私好みのイケボで話しかけてきた。

私の反応が良くなるんだって分かってる〜出来る男ね、ルーベルン。


「それでは、これから成長していく上で美月さんの身につけていくべき悪役の復習をしましょう」


そう、ルーベルンは私のサポーターで悪役家庭教師となっていた。


生まれてしばらくはこの生活に慣れるまでふわふわ漂ってたり1歳のお兄ちゃん、いえお兄様にだけ見つかって「あいあ、」とか話しかけられながらつまらなさそうに過ごしていた。

私以外にも赤ちゃんにはルーベルンが見えるみたいね、霊みたいな感じなのかしら。


とにかく、私の仕事はもう0歳から始まっておりお父様もお母様も知らない所で英才教育を受けていたの。


体力無い赤ちゃん時代になんでこんな事しなきゃならないのかっていうと、このシナリオに失敗したら来世は砂になるって言われたから。

説明された時はそりゃあもう。うぎゃーってつい叫んで家族が飛んできたわ。


(すなー!?)


「砂です。風に吹っ飛ばされたり生き物に踏まれたり、素材利用で固められたりする砂です。風化するまで時間かかるんですよねあれ」


(な、何年)


「下手したら何百年単位」


そんなやり取りの後、うわぁ、ひえぇと一通り悩み抜いて結局腹をくくったの。


この転生先がなぜ人気無いのか分かったのは、もう何もかも始まっている時だった。

私は女神お気にいりの魂をもつ子を彩る為の犠牲。失敗したら来世は砂地獄。悪役を全うしなければまさに未来はないのです…っくう…っ



「今日は問題形式です。ターゲットを見つけたら?」


(睨む、外見の嫌味を言う、無視する)


ルーベルンは私の動揺を心配も邪魔もせず、さくさくと勉強のスケジュールを立てて待っていたそうだ。

仕事の出来る人って冷静と冷酷が紙一重よね。


赤ちゃんの口では話せないので心で問題に答える。


「嫌味とは具体的に」


(服装、汚れてる部分。何も無かったら生まれ持った能力や身体の事を言う。最終手段は拾われっ子)


「正解です。では次。ターゲットの情報を」


(3年後に廃墟から可愛くって仕方ない女の子が来るのよね。お父様が一目惚れして連れて来て、急に皆の注目が手のかかるその子に。私は夜泣きを始めて落ち着くまで家族から別室に引き離される)


「よろしい。では初めての重要な悪役行動は」


(義理の妹になったその子を薔薇の花壇にわざと突き飛ばす。その子には消えない傷が出来る。それが幼少期トラウマの大事なイベント。毎日聞かされていたらさすがに覚えるよ。もうわかりましたぁ)


私が余裕を見せると、ルーベルンは

「では不快なものを見る目付きを練習していきましょう」

ふわんと私の頭上に来て

「前世で一番苦手な人は、お局様ですか」

変な事を聞いてくる。


(人前では偉そうにぎゃーって怒るくせに二人きりのエレベーターでは「悪かったねえ」とかお尻触ってくるセクハラ上司もよ。うえーってなる)


「分かりました」


ルーベルンは手を一振りして次の瞬間姿を変えた。

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