第50話 ライトの虐殺
「お、お待ちください!私たちはあなたの味方……」
何か騎士たちが必死に弁解しているが、俺は最初から決めていたんだ。
最初に俺を冤罪に陥れ、石を投げた王都の民だけは、俺が一人ひとり直接殺してやるとな。
「勇者が狂いおった!者ども!ライトを殺せ!」
国王はそう叫びながら貴賓席から立ちあがる。
闘技場を警備していた騎士たちが一斉に襲い掛かってきた。
「死ね!」
きらびやかな鎧をまとった騎士たちが、決死の表情で剣を振るうが、俺がレーザーソードを振るうたびに何の抵抗もできず胴体ごと切断されていく。
たちまち闘技場は騎士たちの血で染まった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
それを見た民たちは、我先に出口に殺到し、闘技場は大パニックに襲われる。
「どけ!陛下が先だ!」
「しったことか!もううんざりだ!もう俺はこの国から逃げる!」
逃げ出そうとする民たちと、国王を先に逃がそうとする騎士の間でもみ合いになり、中には切り殺される民たちもいた。
「ふふふ、逃げろ逃げろ。後からゆっくり追い詰めてやる」
混乱の中、俺は一人ずつ逃げ遅れた民を殺していく。
「お、俺は関係ない!」
「勇者様!助けて!」
「違うんだ!俺は騙されていたんだ!」
民たちは俺に殺される間際、必死に言い訳をして命乞いをしてきたが、俺は許す気はなかった。
「俺は覚えているぞ。俺が冤罪をかぶせられ、弾劾された時にいかに嬉しそうに罵声を浴びせてきたか。家族が殺される時に、いかに拍手喝采を浴びせてきたか」
そう、あの時の民たちの顔。正義の立場にたって弱者を迫害する表情。俺はおまえたちを一人も許しはしない。
焦らず一人ずつ民を切り殺していく俺。ようやくすべての民が逃げ出した後には、闘技場には数百人の死体が転がっていた。
「どうやら国王は逃げ出したみたいだな」
貴賓席に転がっている王冠を見て、俺はニヤリとする。
「いいだろう。奴がここに戻ってくるまで、しばらく預かっておくか」
王冠を拾い上げ、俺はゆっくりと闘技場を後にするのだった。
予は国王ルミナス。今はライトの襲撃に怯え、城門を閉ざして城に立て籠もっているところじゃ。
城下町からは、民たちがライトになぶり殺しにされる叫び声が聞こえてくる。
「王様!助けてください!」
「城に入れてください」
大勢の民が城門に押しかけているが、予は騎士たちに命令して門を厳重に閉ざした
「あの……よろしいのでしょうか?民を見捨てることになりますが!」
「黙っておれい!」
余計な差し出口を叩いた騎士団長をしかりつけ、傍に控えていた大臣の一人に聞く。
「……なぜ民たちは城に押し寄せているのじゃ。さっさと王都から逃げればよいものを」
「はっ。それが……ライトが張った光の結界によって王都は包まれてしまいました。出ようにも、結界に阻まれて出られないのです」
それを聞いて、予はため息をつく。
「予は魔王というものを見誤っておったのか。勇者と同じく、厚遇すればこちらになびくものと思っておったが。まさか利も情も無視して民の虐殺に走るとは」
「……恐れながら、今までライトが各都市でやってきた虐殺を見れば、それは甘い考えだったのかと」
またもや騎士団長が余計な口を叩くが、予には怒鳴る気力も残っていなかった。
そうしているうちに、城門のほうから叫び声が聞こえてきた。
「ライトが来た!」
「押すな!早く門を開けろ!」
そんな声が聞こえてきて、護衛した兵士たちが悲痛な顔をして耳をふさぐ。
ベランダから恐る恐る城門を見下ろすと、両手からレーザーソードを生やしたライトが民たちを虐殺していた。
「悪かった!謝るから!」
「お、俺は最初からお前のことを勇者だと……」
「お願い!子供だけは助けて!」
いかなる言い訳も命乞いも聞き入れず、愉悦の表情で民を殺していくライト。その姿は、まさに魔王である。
予は虐殺される民を見ているのが耐えられず、玉座に戻って頭を抱え込む。
「ど、どうすればいいのだ!ライトはすぐにでもここにやってくるぞ」
謁見の間にいた貴族たちが、青い顔をして騒ぎ出した。
「……やむを得ん。脱出する」
予は断腸の思いで、王都を捨てることを決意する。
「……ですが、どこへ行けば?」
「この地はライトにくれてやり、我らはエルフ王国のあった大陸まで逃げる。そして新たな勇者を産み育て、いつの日か奴に復讐するのじゃ!」
予がそう言い渡すと、貴族たちの顔にわずかに希望の色が浮かんだ。
「では、さっそく」
「うむ」
メイドや騎士たちが慌ただしく動き、城に残されていた金貨や宝をまとめる。
予の妃や姫たちにも、粗末な服に着替えさせ、最低限の荷物だけ持って行くように言い含めた。
「陛下、シャルロット姫が自室から出ようとしません。『勇者に捨てられた』とつぶやくばかりで」
「放っておけ。奴にかまっている暇はない」
予はそう言い捨てると、大急ぎで地下通路に潜る。
「忌まわしい魔王め。今は王国を滅ぼしたと悦には入っているがよい。悪が栄えた試しはなし。我らはいつかきっと、新たな勇者を擁して戻ってくる」
予はそう心に決め、暗くて狭い地下通路に入るのだった。
俺は城下町の民たちを皆殺しにし、城門の前に立つ。
堅牢な門は、レーザーソードの一振りであっさり崩れ落ちた。
「さて、国王たちはどこにいるかな?」
光魔法を床に這わせて生物を探索するが、奥の後宮にいる一人を除いて反応がない。
「もしかして、逃げたのかな。まあいい。残っている奴に聞いてみるか」
俺は悠々と歩きながら、後宮に向かう。城の内部は荒れていて、物が散乱している。
中にいた者たちは、慌てて逃げ出していったというのが窺えた。
生物反応がある部屋の前にたち、勢いよくドアを開ける。
中には酒瓶に囲まれて、一人のお姫様が愚痴をこぼしていた。
「みんな、みんな、いなくなってしまいましたわ」
そうつぶやきながら、酒をラッパ飲みする。さすがの俺も、あまりに意外な光景を見せられて、絶句してしまった。
「お前は第一王女シャルロットだな」
「あなたは……魔王ライト」
俺を見たとたん、今まで濁っていた目に光が戻り、シャルロットは俺に指を突きつけた。
「魔王ライト。あなたは何人殺したの?何人を不幸に落としてきたの?これだけのことをしておいて、あなたは何がしたかったの?」
ヒステリックに叫び続ける。
「何人殺したかは知らん。不幸にした奴も数えきれないだろう。俺がしたかったのはただの復讐だ。自分と家族のな」
そう返してやると、シャルロットはさらにヒートアップした。
「あなたとあなたの家族の命が、数百万人の民たちと釣り合うとでも言うの?たかが農民の分際で!」
「俺の中では、数百万人の他人の命より俺と家族の命のほうが大事だ」
それを聞くと、シャルロットは俺をあざ笑った。
「あはははは。……よくわかったわ。あなたは偽勇者で間違いない。勇者だったら自分よりも世界のことを大切に思うはず。自分を犠牲にしてでも、みんなを救いたいと思うはず!」
そんなシャルロットの勝手な願望を、俺は思い切り鼻で笑ってやった。
「そのとおりだ。綺麗ごとと自己犠牲が大好きな勇者なら他を当たれ。俺は自分のエゴを貫く『魔王』なのさ」
何を言っても魔王である俺には響かないと知ると、シャルロットは肩を落とした。
「……もういいわ。私には何も残ってない。殺しなさい」
「ああ、殺してやるさ」
捕まえて国王の前でなぶり殺しにしてやろうかと思ったが、どうやら奴は実の親にも見捨てられたようだ。ならサクッと殺すか。
「死ね!」
俺のレーザーソードがきらめき、シャルロットは血しぶきをあげて倒れ込んだ。
奴の魂が俺の中に入ってくる。
「なるほど。こいつの魔力属性は『空間』か。召喚魔法を逆転して、光司を元の世界に送り返したんだな」
光司に裏切られた絶望と共に、奴の行先の情報が入ってくる。
「くくく……元の世界に逃げ込めばなんとかなると思ったみたいだが、甘いんだよ」
俺はシャルロットの魔法である『空間魔法』も手に入れた。つまり、奴をいつでも再召喚できるということだ。
「奴に対してはじっくり準備を整えて、最高のもてなしをしてやろう。それは後回しだ」
そうつぶやくと、俺は地下通路に向かう。通路のはるか先からは、憎い国王や貴族たちの気配が伝わってきた。
予は地下室の隠し階段から、地下通路に入る。
普段は下水道として使われている通路からは、カビと下水の嫌なにおいがした。
「くっ……王たる予が、こんなところに来る羽目になるとは……」
あまりにも臭い臭いに、顔をしかめる。
「陛下、我慢してください。命には代えられませぬ」
「わかっておる」
騎士団長にいさめられ、予はしぶしぶ通路を進んでいく。予の後には姫や貴族たちが続いた。
「ひっ。臭いですわ!」
「きゃあああ。汚い。首筋に何かついた!」
大騒ぎしながらのろのろと進む貴族たちに、騎士たちはいらだちを隠せない。
「静かにしてください。魔王ライトがすぐそこまで迫っているのですよ!」
貴族たちをそうたしなめると、団長はまだ若い騎士たちを後続に配置する。
「いいか!お前たちはここで待機して、ライトが来たら時間を稼ぐんだ!」
「そんな!俺たちに死ねっていうんですか?」
若い騎士たちから抗議の声が上がる。わが王国の騎士ともあろうものが、命を惜しむとはなんたる軟弱さか。
「生きてここを出られたら、そなたたちに爵位を与え、貴族家の当主としてやろう」
予はそうなだめるが、騎士たちは納得しなかった。
「……はっ。今更そんな物に価値があるかよ。もう王国なんて滅んだも同然じゃないか」
1人の若い騎士がそうつぶやくと、剣を抜いた。
「むしろ、ここでお前たちを皆殺しにして、ライトに見逃してもらうほうが生き残る確率は高そうだな」
その言葉に、他の若い騎士たちも一斉に剣を抜いて、予をはじめとする貴族たちに突きつけてきた。
「ひっ!お、お前たち、主人である我ら貴族に反抗する気か?」
「うるせえ。王国は滅ぶんだから、もう主人も家臣もねえ。俺たちは自由だ」
一触即発の雰囲気になったとき、騎士団長が動き、最初に反抗した騎士を切り殺した。
「ひっ!」
「情けない。魔王に攻められた程度で騎士の誇りを忘れるとは、恥を知れ!」
血に染まった剣を振りかざし、反抗した騎士たちを威嚇する。
「陛下は伝説の勇者ライディンの血を引く方だ。きっといつかその子孫に新たな勇者が現れ、魔王を倒してくださる。その時には、お前たちは子々孫々に至るまで魔王に組して王を裏切った騎士として辱めを受けるのだぞ」
騎士団長の言葉に、反抗した騎士たちに動揺が走る。
「苦しいのは皆一緒だ。将来、魔王を倒す新たな勇者が生まれることを信じて、人類の礎になってくれ」
「……わかりました」
騎士団長の説得により、騎士たちは予の捨て石になることを了承するのだった。
「すまぬ……そなたたちのことは忘れぬ」
「……陛下もご壮健で。いつかきっと新たな勇者を育てて、この国にご帰還してくださることを信じてます」
予は騎士たちと涙の別離を果たし、貴族たちと先へ進むのだった。
「やれやれ、一時はどうなるかと思いましたぞ」
騎士たちの姿が見えなくなると、貴族たちはほっとした顔で胸をなでおろす。
「ふふ。騎士というものは単純じゃ。誰もが悲劇の英雄になりたがっておる。予たち高貴な身分の者は、その自己陶酔を満足させる場を与えてやればよい」
やつらのことなど知らぬ、予と貴族たちさえいれば、新たな国を立て直すことなどたやすいのだからな。
その言葉を聞いた騎士団長は失望した顔になるが、黙って予に付き従う。
しばらくして、はるか後ろから「ギャアアアアア」という叫び声が聞こえてくる。どうやら、ライトが来たらしいな。
「急ぐぞ。王都の外まであとわずかじゃ」
予たちは足早に地下通路を進む。外への出口につながる最後のドアを開けたとき、オレンジ色の結界が通路をふさいでいた。
「ま、まさか、これは『輝きの球』による結界?」
「ばかな!ここは地下だぞ」
くそっ。まさか結界が地下にまで張り巡らされているとは。
このままではまずい。なんとしてでも結界を破らねば。
「こ、このままじゃ終わりだ。陛下!一刻も早く結界を破ってください」
「わ、わかっておる。『聖光(ホーリーライト)』」
予は魔力をふりしぼって、聖なる白い光をオレンジ色の結界に当てる。
「フラッシュ!そなたもライトを迎撃に向かえ!」
「……かしこまりました」
騎士団長は覚悟を決めた顔をして、その場を離れるのだった。
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