第5話 出会いは突然に
柚菜と別れて次の日。
すっかり柚菜の事を振り切った僕は、普通に学校へと通う。ただ隣に柚菜はいないだけで何も問題は無かった。
そしてその日、僕は知らない女子から呼び出された。
「あっ、やっぱり、アナタが如月悠貴君でしょう」
何かを確認するように僕を見回す女子。
ネクタイの色から先輩ということだけは分かった。
「あの僕は先輩のこと知らないんですけど」
「あら私もまだまだね。これでも読者モデルとか配信とかしててそれなりに有名なんだけど。まあいいわ、私は
とりあえずよろしくと言われたので頭だけ下げておく。
「それでなんのようで呼び出したんですか?」
「あら、女子が男子を呼び出すのに告白以外ありえるの?」
「それこそ、ありえませんよ。名前も知らなかった人に突然呼び出せれて告白されるなんてこと」
「どうして言い切れるの私が遠目から絶賛片思い中かもしれないじゃない」
「それなら何で僕のこと最初に見回したんですか? 遠目からでも見ていたのなら多少は僕のこと知ってるはずですよね」
「…………ぷっ、プハッハッハ。君想像以上に面白いね、ただの冗談を理屈こねてそこまで否定するなんて」
「まあ確かに、良く冗談が通じないとは周りからも言われますね」
「うん、そうだろうね。じゃあ冗談は抜きにして本題よ」
さっきまで笑ってた顔が真剣になり僕を見る。
「私と仮で付き合わないかな?」
先輩の言っている意味が分からなかったので尋ねる。
「どうしてそんなことしないといけないんですか」
「アナタの彼女が浮気してるからよ。私の彼氏である
なるほどと意図は理解したが柚菜のことは終わったことなので正直意味のない話だった。
「それでしたら知ってますし、昨日別れました」
「えっ、えー、そうなの? 君って即断即決な人だったんだビックリ」
「えっと、そう言う訳なのでもう意味が無いです」
「どうして? 悔しくないの浮気した彼女を見返してやりたいと思わないの?」
「ええ、もうどうでもいい事ですから」
本心で言ったのだが向こうはそう思わなかったらしい。
「本当にそれで良いの? 私の計画に乗ればある意味あいつから彼女だって奪い返せるわよ」
「はあ」
「あいつ女に対してはだらしないのよ。あいつ演劇部でしょう。気に入った娘を相手役に選んで誑し込むなんて当たり前だし、捨てた娘にはしっかり口封じするから悪い噂も立たない。かなり計画的なクズになっちゃってるのよ」
そのことを柚菜が間違いを冒す前に知っていたのなら何とかしようとは思っただろうが今は特に何も思わない。
それに目の前の高遠先輩だって同じだ。
「まあ、その相手を選んだのは貴方もですよね」
「うぐっ、痛いところを突いてくるわね。ええ、そうよ顔と演技に騙された私がバカだったのよ。あいつ悔しいけど演技だけは天才的よしかも相手の心の機微を読み取るのも得意だし。あの顔と相まって天性の女たらしね」
なるほどそれで柚菜も堕とされたという訳だ。
理由が分かれば柚菜にも同情の余地はあるかもしれないが裏切った事実は覆せない。
それに上手く誘導されたとはいえ、柚菜が先輩に抱いた感情は本物のハズだから。
「だとして、僕と先輩が付き合ったところで何かが変わるとは思えませんが」
演劇部の先輩という人が元カノの高遠さんと僕が付き合ったところで嫉妬するとも思えない。
言葉は悪いが彼女を寝取られた上でお下がりを貰うようなものだ。
僕としては完全に負け犬である。
「そうでもないわよ、だって貴方あの
「えっ、どうしてそれ……」
そう言おうとして止めたが遅かった。
勝ち誇った顔で高遠先輩が僕を見る。
「やっぱりね」
「はあ、まんまと引っかかりました。でも何で怪しいと思ったんですか?」
今後の対策のために聞いておこうと思い尋ねる。
「アナタが鼻歌を歌ってるのをたまたま聞いたのよ。その時まだ未発表だったはずの
きっと無意識だったんだろう、しかしそんなところから身バレするとは思っていなかった今後は注意しないといけない。
ただ顔を公開していないので、先輩がいくら言ったところで無駄だろう。
「仮に先輩が僕を
学校では普通に過ごしている。目立ちすぎず、かといってボッチにもならないよう。
どちらも方向性が違うだけで他者に意識されることには変わりないから。
そんな普段は普通な僕が
「ええ、そうでしょうね。私もその事実は私だけが知ってれば良いことだから」
「なおさら意味がわかりません。先輩は何がしたいんですか?」
「本当なら付き合ってデュオでも組めれば良かったんだけどその様子だと無理そうね」
「無いですね。あとプロデュースとかも無理ですよ、そんなノウハウ持ってませんし」
高遠先輩には前もって牽制しておく。
だいたい僕が他者に光を灯すことなんて出来っこないから。
「それも駄目か〜、それなら楽曲提供してよ」
「あの簡単に良いますね。そもそも先輩に何で僕がそこまでしないといけないですか? 主旨だって変わってきてますよね」
面倒くさいので話を切る方向に持っていく。
「ごめん、私
見た感じではとてもそう見えない。
柚菜の事もからも、きっと僕は女性の機微には疎いのだろう。
しかし僕に高遠先輩の機嫌を伺う必要はないわけで……埒があかないので帰ることにする。
「はあ、ありがとうございます。それでは失礼します」
「待って、待って。別に彼氏彼女として付き合わなくても良いからお願い協力して」
90度の角度で頭を下げられ懇願される。
「……仮に先輩に曲を提供して僕の利点は?」
「唯斗の悔しがる顔が見れるわ」
「さっきも言いましたがどうでも良いです」
「彼女も救えるわよ、みすみす悪い男に引っかかって不幸になってもいいの?」
「元カノです。それにそれが彼女が選んだことなら責任は自分で負うべきです」
「あら随分ドライなのね。確かにこれじゃあ彼女も…………あのね私もだけどアナタの元カノだって所詮は唯の高校生よ感情に流されて間違うこともあれば、勘違いから失敗だってする。私達の歳で相手を一生愛し続けるなんて言っている子がいたとしたら本当に純真無垢なお姫様か異常者よ」
「ええ、僕もそう思いますよ。だから僕は柚菜……元カノに別れを切り出して演劇部の先輩と付き合うように言ったんですよ」
「……はぁ? 信じらんない。何で引き止めなかったのよ好きだったんでしょう彼女のこと」
「ええ、好きでしたよ。だからこそ許せないじゃないですか簡単に想いを裏切れる事を知ったら、悔しいじゃないですか僕より好きな人がいると知ったら」
消えていたはずの柚菜に対する感情が少しだけ呼び起こされる。
「その気持ちがあるならなおさら引き止めなさいよ。あいつなんかより自分の方が好きだって事ちゃんと彼女に伝えてあげた?」
そう言って高遠先輩が物凄く真剣な眼差しで僕に詰め寄る。
「それ以前の問題ですよ。彼女は僕との約束をキャンセルしてまでその先輩といることを選んだんですよ結果は出てるじゃないですか?」
僕は後退りしながら答える。
「ああもう、それだってきっとあいつの手口なわけで、ころっと騙された私が言うからこそ断言するわアナタの元カノ絶対に後悔する事になるわ」
それは経験者は語る的なヤツで、実際に高遠先輩の顔は悔しそうでいて、悲しそうな表情をしていた。
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