甘いもの

幼少期の「好きな食べ物」といえば、あじの開きとほうれん草の炒め物だった。


幼稚園や小学校の自己紹介などで何度も書いた。相模湾の近くで育ったのであじの開きが食卓にのぼることは珍しくなかった。野菜が嫌いな方だったにもかかわらず、ほうれん草だけは気に入ってよく食べたし、お弁当にも入れてもらっていた。今から思えば渋い趣味だ。


大きくなってから、もっと言えば40代に入ってから、甘いものが妙に好きになった。パンやお菓子を明確においしいと思って食べるようになった。その結果、やせづらい身体になっていった。それまでは「大食いだから体重が増える」傾向の方が強かったのに。


小さい頃は、我が家がそんなに裕福ではないことももちろん影響したと思うけれど、そんなに甘いパンやお菓子、ケーキなどは身近な食べ物ではなかった。生活範囲の中のどこでも買えるというわけではなく、大きい街に行って大きなデパートの中でケーキを買うか、小売りの和菓子屋さんで和菓子を買うか。だからこそ誕生日やクリスマスのホールケーキは贅沢品であり、イベントの特別感も相まって、記憶に残るものになっていたのだと思う。


それが大人になって、ある程度自分の好きなように使えるお金があり、「栄養満点のごはん1食よりもおいしいケーキ1個」のような選択ができるようになったら……もっといえば、口うるさく栄養バランスを気にするありがたい親の言葉が届かなくなってから、あらためて「甘いもの」の美味しさがわかってしまった。


甘いものはおいしい。カロリーはおいしい。炭水化物はおいしい。それまであまり好きではなかったクリーム関係のお菓子だって、40年くらい前より品質が上がって、ごく普通に食べられるようになった。


その代わり、40代に入って胃袋のキャパシティはがくんと落ちた。大きなお弁当箱に詰まったごはんでお腹いっぱいになれなかった高校時代とはもう違う。基礎代謝だって落ちてしまった。食べれば食べるだけ脂肪に変わってしまうのだ。


もっと若い頃に、もっと甘いもののおいしさがわかるようになっていたら――と考えるとそらおそろしい。お金があまりないことは寂しくはあったけど、長い目で見れば、今の消費可能な量で太るか太らないかを気にして食べているくらいの方が、お金面でも脂肪面でも適正な分量に落ち着くのかもしれない。日々体重計の数字に一喜一憂してはいるけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る