12. 意外と知られていませんがアサシンは高DPS職です。なおPT需要は(ry
「3分ですわ」
砕け散った、氷の結晶のように乱反射する荘厳な壁面。
その壁をぶち破ってきた巨大な氷のゴーレムを前に、バ美・
「3分たってもこんなクソザコすら倒せないなら、どのみちおめぇらに先はねえですわ(笑)」
あいかわらずきったねぇお上品な日本語で煽ってくれやがる。
「言ってくれますね……」
ひるみきっていたしょーたろーが、突然の来訪者を中心に、ダガーを構えたまま円を描くように散開しはじめた。
「来るぞ!」
俺の声とほぼ同時に。
かるく俺たちの倍はあるであろう高さの氷のかたまりが、一気に加速して地響きとともに突っ込んできた。
目標はバ美・肉美。さっきの
だが一瞬。
ダガーを構えた俺の前を、ぬめるような真っ黒な影が氷の鏡面のような床を滑るように走った。
「ようは殺せばよいのだろう?(小声)」
真っ黒な一枚布で覆われたモブ子が、右手に構えた漆黒のダガーに光を込めながら流れるように疾走していた。
一瞬だった。
ゴーレムの足元に潜り込んだモブ子が、高速で氷のかたまりのような分厚い足を無数の一撃で切り刻んで消し飛ばした。
「ほう……(小声)」
突然の右足の喪失。
踏み込んだままバランスを崩したアイスゴーレムが、手をつくこともできず頭から落石のように床へと叩きつけられた。
かと思うと、その勢いのまま滑るようにバ美・肉美へなだれ込んでいった。
「よけろ!」
圧死する!
だがクソ巻き毛は。
なめ腐ったように笑ったまま、ただ髪をかき上げるだけで一歩たりとも動かなかった。
「何考えてんだ!」
だが。氷上のような床を勢いよく滑るアイスゴーレムの巨体がクソ巻き毛をひき肉にする直前で。
突然、地面から湧くように生えた巨大な鉄の虎ばさみに、その体を噛み砕かれるかのようにとらわれていた。
「大丈夫です!!」
しょーたろーだった。
遠く、散開していたしょーたろーが静かに強く叫んだ。
「ヒーラー周りはトラップを仕掛けています……!」
咆哮が上がった。
自分を捕らえる
巨大な氷のかたまりのような腕が、目の前にいるクソヒーラーを叩き潰さんと宙を切っている。
だが、その砕け散った右足。
飛散した氷のがらくたが、吸い込まれるようにその形を取り戻しはじめていた。
「な……」
「ゴーレムなんです!」
しょーたろーが叫んでいた。
「再生する前に
「ヒロ!(小声)」
遠く、ゴーレムの足を砕いたモブ子が、再度その手に握る漆黒のダガーに光を込め始めていた。
「お前は……! いつから突っ立ってるだけが仕事になったのだ……!(小声)」
ムカつく~☆
俺は、無言で握る二刀のダガーを構えた。
ショートソード・ディレイ・キャンセル。
モブ子がアイスゴーレムの右足をかっさらったスキル。それとまったく同じもの。すべての攻撃モーションの
両手に握る剣先に、スキルの光が収束していく。
俺は、地面をえぐり取るように加速しながら叫んだ。
「コアなんてどこにあるんだよ!」
「知るか!(小声)」
一瞬で俺を追い抜いたモブ子が、跳ねるように宙を舞いながら叫び返した。
「全部ぶった切ればよかろうよ!(小声)」
光を放つ三筋のダガー。
それを握りしめた俺とモブ子は、虎ばさみにはさまれたままの巨大なゴーレムを。
まるでかき氷でも作るかのようにその全身を一瞬で削り飛ばしていた。
「ギリで及第点ってところですわね(笑)」
一面に広がるパウダ~スノ~なかき氷。
食ったところでノンカロリーなのがまるわかりなアイスゴーレムの残骸の中、いうてそれなりにご満悦では? という顔をしながらバ美・肉美が口を開いた。
「でも最後以外はなんなんですの? もうちょっとこう、ザ・連携! って感じでサクサク動けませんの? いつものPTメンバーなんでしょう? おめぇらは」
はぁ~? なんだこのクソヒーラーは。ネカマのツンデレか? 犬のクソよりも価値がねえんだよぶん殴るぞ。
だが俺は同僚の愚痴も上司の罵声もすべてを飲み込む大海のようなジェントルマンなので、そういうお下品なワードは紳士のたしなみとしてぐっと飲み込み
「ぶち殺すぞ(小声)」
言ってる~☆
さすがモブ子。喉元まで出たゲロを躊躇なく吐き出せる下民の鑑。ふるさと納税でストロングゼロを頼んでそう。
「お前なんてミンチになる寸前だったではないか(小声)」
「おろかですわ~。そこのクソジャリがせこせこトラップを仕込んでたのをこの私が知らなかったとでも思いますの?」
「はいはいどうどう」
いつものごとく、低身長☆ショタ全開のしょーたろーが、バレーボールをブロックするかように両手を上げながら割り込んでいった。
「まあ、とりあえず」
不満げに巻き毛をかき上げるバ美・肉美が(いちいちそのモーションいる?)、きらめく粉雪になったゴーレムの死骸に手を突っ込み、何かを探すようにまさぐり始めた。
「回収するものは回収しておかないともったいないですわね」
ズボッ! と凍傷になりそうなほどの雪の中から何かを掴んで、俺たちの前に掲げて見せた。
パパパパ~ン☆
小さな青いビー玉のようなものが、中心に真っ二つに割るかのような亀裂が入っている。
「……なんだ? それ」
眉をひそめる俺の前に、バ美・肉美が軽く笑いながら青い玉を近づけてみせた。
「ゴーレムの心臓ですわ。加工すると魔法防御耐性を上げるエンチャントアクセサリーになりますの。こいつの場合は氷結と熱傷ってところですわ。っつっても、生産職なんてこのPTにいやしねえんですけど(笑)」
無用の長物~。
「ただ、別の使用方法もありますの」
「別の使用方法?」
バ美・肉美が、これまたご満悦~☆ っていう笑いを浮かべた。
かと思うと、鏡面のような床に。
ひびの入ったビー玉を落としたかと思うと、鈍器以外の何物でもない金属製の杖でゴルフのフルスイングのごとく勢いよくぶち砕いた。
「な……!」
瞬間、部屋全体を揺らすような衝撃。
震源は、床ではなかった。
破片が飛び散ったクリスタルのような壁。
その輝く壁面が、轟音とともに外側から吹き飛ぶようにぶち破られた。
三か所同時に。
「
「何やってんですか……!!」
ダガーを構えるしょーたろーの前。
さっきのゴーレムとほぼ同じ大きさの、新鮮な三体のかち割り氷。
バカでかい真っ黒な穴から飛び出したそれが俺たちをにらんだかと思うと、再び割れるような咆哮を上げた。
「こいつら無限連鎖するから経験値稼ぎに最適なんですわ(笑)」
「バカかお前……! そんな暇あるわけねえだろ……!!」
「おろかですわ~」
相変わらずクソみたいに人を見下したバ美・肉美が、笑顔で杖に
「どうせおめぇのことですから、クソハルさんがこのフロアを安全に通過できるかを懸念してるんでしょう? ですからこのフロアにいるゴーレムのタゲを全部無理やりとってやってんですのよ。感謝してほしいくらいですわ(笑)」
邪悪そのものと言わんばかりのクソヒーラーから放たれた光。
それが、再度俺たちの体を淡く包み込んだ。
三体のゴーレム。
いっせいに、地鳴りのような地響きをあげながら俺たちへ突っ込んできた。
「クソッ!」
俺は再度、両手に握るダガーにスキルを込めた。
「しょーたろーはそいつの守りを頼む!」
「わかりました……!!」
バ美・肉美が再度、先端の光る極太☆金属棒に
「いいですこと? この私がいる限り、こんな物理だけのクソ人形相手におめぇらが死ぬっていう選択肢は皆無ですわ。私に文句があるんだったら、腹が減ってくたばる前にさっさと結果で黙らせてほしいんですの(笑)」
*
「いやぁ、助かったよ」
氷のようなクリスタルのような。
よくわからないただただ冷える荘厳な部屋。
だだっ広いエリアの中、アイスゴーレムをしのぎ切った私たちは、自然回復のためのたき火を囲みながら暖を取っていた。
「何度あたまを切り取っても再生しちゃってねぇ。じゃあ体ならいいのか、って思っても固すぎて刃が立たなくてさぁ。あ、これはジョークじゃないよ」
はっはっはっは。
真っ白なコック帽をかぶった白い綿毛のおっさんが、何が面白いのか全く分からないジョークを言いながら、妙にテカる笑顔でたき火にまきを足していた。
「四肢をもいでもまたくっつくしな」
「もうダメかなって思ったよ」
異様にもみあげの長い極太眉毛のおっさんが、コック帽のおっさんの隣でしみじみとうなずいている。
「まあ、本当に助かったよ」
「へへ……☆」
火が暖かい。
私たちが6階にきて出たすぐの部屋。
そこでいきなり出てきた、このおっさんたちとアイスゴーレム。
アイスゴーレムは、盾から剣に切り替えた
莉桜が巨体を両断した中、再生するゴーレムの中心に小さな青い玉があるのを見つけたコック帽のおっさんが、寸胴な体型からは想像できない俊敏な動きで玉を抜き取った。
その直後、硬直したように動きを止めたアイスゴーレムは、まるで砂が溶けるように崩れて消えた。
おっさんたちの謎のオネェ口調とともに。
「ウォーターガーデンぶりだねぇ。僕らのこと覚えてる?」
「もちろん~☆」
とっさに嘘をついた。
いや、別に嘘ではない。名前がわからないだけだ。
あの時、ギルドウォーで現代兵器をぶっぱなしてた二人組のおっさん。小島全体が燃えさかる中、最後に熱い抱擁をしていた謎のカップル♂。とりあえずそれだけは間違いなく覚えている。
ん……?
私は何かしら異変を感じていた。
なんだろう。いつもに比べて少しだけ調子が狂う。なんだ……?
「その後どう? 何か面白いことはあった?」
「いやぁ……☆」
ボーっとしてた中、突然話を振られた私は適当な返事をしてしまった。
「ちょっと、まあ、いろいろと……☆」
自分でもわかる、コメントできないような返事。
何を話していいのかわからない中、時間だけが過ぎた。
「二人だけなんですか~?」
バックパックの上に座った莉桜が
私は知ってる。
このあごに手に乗せる莉桜の癖は、ろくでもないことを考えてるときのサインだ。
「そうだよ。君たちは?」
「私たちも二人なんですよ~」
若干怪訝そうにひるんだ白いコック帽のおっさんに、莉桜がニヤッと笑って口を開いた。
「賞金狙いで来てるんですけど、いろいろあってちょっと二人だけになっちゃったんですよね。よかったらついでにPTなんてどうかな~って」
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