7. 絆のVRMMO(笑)がお送りするクソゲーそれはアサシンゲーム

 たった2時間弱。

 そんな短時間のあいだに、こんなにも聞きなれてしまった妙にかわいらしいアナウンスが、最後の最後。本当に最後の開封を告げた。


『結果』


 全員が、中央のバカでかい円筒状のウインドウを見ていた。


『商人: 17人

 傭兵: 0人

 アサシン: 0人』


 俺は、少しだけ泣いた。


 最後の最後に、全員が商人を入れて終わった。

 このゲームの本質を見た気がした。


『結果、行商は成功しました。皆さんの所持金は以下のようになります』


 A 【 170 G】 (C -60)(+150)

 B 【 170 G】 (C -60)(+150)

 C 【 170 G】 (C -60)(+150)

 D [Deleted]

 E 【 170 G】 (C -60)(+150)

 F [Deleted]

 G 【 115 G】 (C -40)(+100)

 H 【 355 G】 (C -60)(+150)

 I [Deleted]



 3人も途中で死んどる~。

 なんなんだこのクソゲーはッ!!!


「最後の最後に、やっと商人だけがそろいましたね……」

「そろっちゃったなぁ」

「お☆」


 ハルが能天気な声を上げた。


「これ、私たち全員2位なんじゃない?☆」

「あ、ほんとだ」


 ついでにバ美・肉美まで2位~。


 となりでキノコヘッドが少し涙ぐみながら手を握ってきた。


「俺、最後までどうなるのか不安だったけど、生き残れて本当によかったよ……」

「いやぁ、こっちこそ——」


 俺はキノコヘッドの手を強く握り返した。


「ありがとうございました」


 なんかよくわからん謝恩会みたいなムードになっとる~。こいつ本名なんだったっけ~。



 突然、ブザーが鳴った。


 灰色のコンクリートで塗り固められたクソでかいドーム。

 その頂上で光る輪のような光源の中心が、再度くりぬかれるように亀裂が走った。


「諸君、生き残りおめでとう」


 金色の金具をつけた、赤いベルベットの豪華な椅子に座ったゴスロリクソメスガキが、楽しそうに手を叩きながらゆっくりと椅子ごと降りてきていた。


 このクソ諸悪の根源がッ!


「7回戦が終了した結果、1位および2位に順位ポイントを付与する。目標金額を上回ったポイントはそれぞれのステータスを確認するがいい。好きなようにふれるボーナスポイントとなっているだろう」


「おお……」


 俺は自分のステータス画面を見て衝撃を受けていた。


 120ポイントのステータス余剰ッ!

 レベル換算にして20レベル分ッ!


 歓喜の声を上げながら、俺たち3人は意味なく無駄に高いテンションで手を叩きあいまくっていた。


「すごくないですか!? 僕これだけあったら生産に使えるMAGまりょくにも振ろうかなって思います!」

STRきんにくに振ってもおつりがくるね~☆」


 やめろ。なぜお前らはそんないばらの道を突き進むのだ。お前らはアサシンと魔法使いであってバックパッカーでも戦士でもないのだ。素直にAGIすばやさとMAGに振れ。


「ちなみに」


 玉座に座ったゴスロリが、水を差すように言葉をつづけた。


「人質となったプレイヤーは、獲得したボーナスポイントを使うことで呼び出し元となった悪質プレイヤーの復活を行うこともできる」


「は?」

「紐づきでみると……」


 ゴスロリが画面を見て眉をひそめた。


「現状、それが可能なのはA、B、Cのお前たち3人だけだが、どうする?」








 玉座が据えられた、丸くくりぬかれたコンクリの床。

 椅子に座るゴスロリを中心に、俺たちはその平べったい丸い床に乗っていた。


 こいつが降りてきた穴。

 その穴の奥、真っ暗な空間の中を、円盤に乗った俺たちはただひたすらにエレベーターのように昇っていた。


「この先は我々運営AIだけが入れるゾーンだ」


 こいつAIだったのか。

 そりゃこんな運営いたら大炎上だわ。


「お前たちのゲームが出した、最後の商人のみの7回戦目。あれは、ほかのルームでプレイしている全プレイヤーを含めても誰一人なしえなかった奇跡の一回だった。それを高く買って、運営ルームに直接呼ぶことにした」


 はぁ。


 ゆっくりと、円盤の上昇が止まった。


 何もない真っ暗な空間。円盤の先、闇の中にまるで夜の飛行場のような小さな青白いランプが、まるで誘導路のように光を灯していた。


「ついてこい」


 ゴスロリが、胸にかかった真っ白なツインテールを手でかき分けた。何も無い闇の道を、ヒールの先端が響くような足音をたてながら先導するように歩き始めた。


「運営ルームって何なんですか……?」

「俺に聞かれても……」


「ここだ」


 何もない空間に、突然重厚な木のドアが沸くように生えた。


「それでは入るぞ」







 

 宇宙。または満点の夜空。

 そんな感じだった。


 周囲全体、足元を含めてまるで宇宙に浮いているかのような真っ暗な空間。それでいて、端々に何か小さな光る星のようなものが見える。

 そんな不思議な感覚になる空間のいたるところで、モニターのようなウインドウがいくつも開いていた。


 モニターに、見たことのある光景が映っていた。


「これは……」


 さっきまでいた、灰色のドームのような空間だった。

 いくつもあるモニターの中で、それぞれが全く別のプレイヤーが。俺たちがやっていたようなゲームを全く同じように、同時進行でいくつもの画面がその様子を映していた。


「悪趣味すぎる~☆」


「博士。プレイヤーを連れてきました」


 突然、目の前に、リクライニングソファが生えるかのように沸いて出た。


 後ろ向きだったソファが、くるっと回転してこちらを向いた。


 白衣を着たおっさんだった。


 つるっぱげの、それでいてもみあげから口髭にあごひげ、全部のひげがくっついた、ベア~な感じの痩せたメガネのおっさんが、涼やかな笑顔をして座っていた。


「やあようこそ。Unknown Onlineを楽しんでくれてありがとう」


 副音声ッ! なんでか英語でしゃべっててなんでか字幕が下に流れてるッ!


 なんだなんだこいつ……。洋画によくでる変な博士キャラか? このままじゃなんか謎のドキュメンタリーみたいになってんぞ。


「私はAIではなくて、このゲームを開発している人間の一人、マットというものだよ。そこにいる美少女型管理AI『イーモゥ』も私が作ったんだ」

「はぁ」


 握手を求められたので、反射的に手を握った。

 なんだこいつは。っていうかこんなゴスロリ少女を作ったって普通に考えてその選択肢がやべえな。実は性犯罪者ではないのか。


 だがおっさんは勝手に話はじめた。


「実はこのアサシンゲーム、次のAIを開発するためのサンプルを取得しているんだ」

「はぁ」


「君たちは違うんだけど、今回のプレイヤーの中にもいたように、いちじるしく害悪行動が激しいプレイヤーっているだろう? 彼らの行動原理を活かせないかと思ってね。そこでこのゲームを始めたんだ」


 何言ってんだこいつ。


「彼らの害悪行動を逐次ちくじインプットしていくことで、よりいっそう激しく、よりいっそう害悪なNPCを実装できないか。そう僕たちは思ってね。だったら害悪プレイヤーを集めて、キャラデリをかけて蟲毒こどくみたいに競わせたらいいものができるんじゃないかな、って思ったらこうなったんだ」

「人権って知ってる~?☆」


 お前をコピーしたほうがよっぽど手っ取り早いんではないかと思うぞ。


「で、まあそんな感じでデータを集めてたんだけどね。今回は、ボクの予想を超えるいい結果を出してくれたのが君たちなんだ。

 そう、第7回目の商人だけのターン。ああいうのは、普通はできないんだよ。人間には欲があるからね」


 そろそろなんかログアウトしたくなってきたぞ。


「そこで、よかったら君たちにお願いがあるんだ」

「はぁ」

「もう少しだけ、一緒にこのゲームでデータを集めてくれないか?」

「は?」


 しょーたろーが若干キレ気味に声を出した。


「もちろん、キャラデリなんてことはありえないから安心してほしい。それどころか毎回ボーナスポイントもついていく。運営とグルって言い方はアレだけど、君たちにとっても悪い話じゃないと思うんだ。そう、ある意味公言はできないけど正式な運営のテスターみたいなもんだね」


 つるっぱげの髭面のおっさんが、ソファにもたれかかったままほがらかに笑った。


「どうかな。とっても名誉なことだと思うんだけど」


「イーモゥ」

「なんだ」

「このエリアはPKは禁止されてないのか」

「そんなものは想定されていない。そのため設定はされていない」


 俺は、ハルに向かって強くうなずいた。

 ハルがよしきた! というようなポーズの後、手に持ったステッキを来るっと回して詠唱キャストを始めた。


「ライズ~!!!☆」







「今回もマジクソだったな……」


 崩壊した宇宙から一般フィールドに出た俺たちは、さめざめと泣くようにコメントを出していた。


 フレンド欄から消滅したモブ子。さようならモブ子。R.I.Pえいえんにねむれ


「でも運営があんなに頭イかれてたなんて思ってもいませんでした」

「後で炎上させてやるぜ~☆」


「さて」


 俺は背筋を伸ばしながら二人に向かって口を開いた。


「じゃあ俺そろそろ尿意が限界なんで」

「僕もです」

「二度とあんなゲームやんないからな~☆」







 俺たちはそのあと解散した。


 俺は新しく実装されたカジノという言葉を聞くだけで吐き気を催すトラウマに襲われていた。現実でもギャンブルなんてやらないですむのはいいことだね!


 しょーたろーはマジでMAGにステータスを振っていた。最近ではマリオネットスキルまでとって自動で敵をボコす凶悪なAIを搭載したゴーレムを生成しているらしい。もう本当によくわからない。自由度高すぎない?


 ハルはたまにメッセージを飛ばしてくるようになった。主にどっか知らないエリアで「ドラゴンに食われてる☆」とかいうクソみたいな映像をトラップのように送ってくる。未読がたまっているがさらにまだ来るので頭がおかしい。


 モブ子は消えた。言葉通り消えた。跡形もなく。


 ―― ボーナスポイントで復活させることも可能だがどうする? ――


 あのクソゴスロリの言葉がふと頭をよぎった。

 ちょっとくらい恩赦をかけてやってもよかったのだろうか。



 いやないな。


「お」


 砂漠フィールドに沸き立つオアシスのような街の中で、適当にくつろいでいた俺に突然通知が来た。なんだ?


 通知を見た瞬間、俺は背筋に悪寒を感じた。


 PT申請が来ているッ……!! しかも無言でッ……!!


 俺はとっさにあたりを見回した。

 だが何一つ姿が見えなかった。


 だがこのパターン……!

 俺は知ってるッ……!!


「また会ったな(小声)」


 全く何もいないところから、声がした。


 絶対そうだろうなと思った俺の目の前で、ゆっくりとハイドを解いたプレイヤーの姿が現れた。


 高身長で、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できないあたまのおかしいセンスをした「アサシン」だった。


「お前キャラデリされたんじゃなかったのか……」

「されました(小声)」


 されたのかよ。


「名前をちょっとほら。見てごらん(小声)」


 イラつく~。

 自分の頭の上をすげえ勢いでオススメしてくるクソ忍者の名前をよく見た。


 【モブ江】と表示されていた。


 俺は速攻でPTを解除した。



 だが俺の通知欄はそれを許してはくれなかった。

 地獄のような通知を繰り広げていた。


 こいつハイドでストーキングしながら延々とPT申請とフレンド申請を飛ばしてきてやがるッ!!!


 ブロックするしかないッ!!! こいつを!!! ひたすらにブロックするしかない!!!







 俺たちの冒険じごくはまだまだ続くッ……!!

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