6. 今日のレシピは猟奇的アサシンの丸焼きとドラゴンの串焼きですわッ!
「俺たちはかつて
「ああ……。あれはまだ私たちが現役だったころの話だねぇ……」
え? 何? 何の話? そうめん???
ジャムるおじさんが、真剣な顔でライフルを見つめていた。ただひたすらに何か油のしみ込んだ布で銃身を拭いている。
ゴノレゴが念入りに照準があっているかを確かめていた。
「そう。あの時はすべてがおかしかった。俺たちはあの地獄のような世界でそうめんを――」
☆☆ ―― どうでもいい話が流れる間、しばらくお待ちください ―― ☆☆
「話はまとまったようだな」
ナイアガラの滝から流れてくる激流が取り囲む小高い小島の中心で、NINJAとモブ子が腕を組み声を上げていた。
俺以外の全員が、覚悟を決めたように武器を取りNINJAを見据えていた。
え? 何かまとまったのですか? 俺はなんかよくわからんそうめんと中東の話を延々と聞かされたような気がしたのですが、全部右耳から入って左耳に抜けていっただけなので何もわからないのですが。
「それでは――ッ!」
NINJAが俺たちをにらんだ。
「ギルドウォーを開始するッ!!!!!!!!!」
ええ~?
ギルドウォー開始の合図と同時に、敵のアサシンたちが一瞬で姿を消した。
ハイドだ。俺たちの視界の外から必殺の一撃を打ち込んでくる算段なんだろう。
俺は視界の中にハイド中特有の小さな揺らぎを見つけるべく目を凝らした。
「バカみたいな話だねぇ」
のんびりした声をあげながら、後方にいたジャムるおじさんが鉄の塊をもって俺の前に立ちふさがるように歩みを進めた。
「そんなものアサシン同士の戦いで通用すると思ってるのかなッ!?」
ジャムるおじさんが勢いよく両手を突き上げた。さっきまで念入りに拭いていたその「マシンガン」が、野太い両手にそれぞれ握られたまま破裂音とともに火を噴いた。
一瞬、すべての時がスローになったように感じた。
ファンタジックなVRMMOにあまりにも似つかわしくないその近代兵器が、覆うように飛ぶまるで黒いイナゴの群れのような弾幕となりハイドしていたアサシンたちを一瞬で打ち抜いていった。スタジアムほどの広さの小高い平野の中、硝煙の匂いとともにあぶりだされたアサシンたちが次々とハイドを強制解除されその姿を現していた。
50人くらい。
「汚ねえぞ!」
俺は真剣に叫んだ。
「なんだその数どっから来たんだよふっざけんなよ!」
「5 vs 5だなんて誰が言った!?」
抗議を上げる俺の顔面に、NINJAのきらめく忍者刀が振り下ろされた。
だがそれを受け止める俺の視線の向こう、ハイドを解かれたアサシンたちがまるで順番でも存在しているかのように一人ずつ頭蓋を打ち抜かれ後方へ吹っ飛んでいった。
「戦争は数じゃない――」
硝煙の匂いとともに、後ろからゴノレゴの落ち着いた声がはっきりと聞こえた。
「練度と兵器だ!」
叫んだゴノレゴの後ろから何かがハイドから飛び出した。
敵のアサシンだった。ハイドあぶりから逃れ後方に回り込んだ敵のアサシンが、ダガーを手に
「ふっ」
ゴノレゴが軽く笑った。
せまりくるダガーを見向きもせずライフルの根元でいとも簡単にはじき返した。くるっと長い銃身を回転させ、敵ののどもとに銃口を突きつけた瞬間ゼロ距離で凶悪なライフル弾が放たれた。
あっさりと吹っ飛ばされた敵のアサシンが、半透明になりながら川へ落ちて流されていった。
「スナイパーなら近接戦闘ができないとでも思ったのか? 浅はかだな」
「伏せてください!」
しょーたろーの叫び声が響いた。
「うおおおおおおお!!!!!!!!」
強烈なしょーたろーの声とともに、縄に結ばれた何かが砲丸投げのように平野を勢いよく薙いでいった。
予想どおりハルだった。
足を縄で縛られた
瞬間、何かが走った。
遠心力で宙を浮くハルをめがけて、黒いポニーテールの忍者が高速で突っ込んでいった。
「その攻撃は予想済みだッ!(小声)」
モブ子だった。
ハルめがけて走った黒い影が、交差する寸前で後ろ手に地面に手をついた。襲いくる人間砲弾がモブ子をぶち殺そうとした瞬間、肉の塊を下から蹴り上げ、その軌道を平野の真上に弾き飛ばしていた。
「メイアルーア・ジ・コンパッソだッ!(小声)」
え? 何、何。 何?
「拙者の半月をえがく高速の蹴りが敵の
「オタクのクソどうでもいい解説うぜぇ〜☆」
宙に吹き飛ばされたハルから本気でどうでもよさそうな声が漏れた。
「あの魔法使いには攻撃が通らん! 本体は無視してあの縄を握る偽バックパッカーもろとも川に投げ込んで沈めろ!(小声)」
しれっとものすごい畜生な指令をモブ子が飛ばす中、声を聞いたアサシンたちが一斉にその照準を変えた。
軽く10人を超える数のアサシンたちが、縄を握るしょーたろーめがけて突っ込むように襲い掛かかった。
が、その姿が消えた。
しょーたろーの眼前で、まるで地面へ飲み込ままれるように真っ黒に空いたバカでかい「穴」に落ちていった。
「コメントしづらいなぁ」
罠だった。
あらかじめ自身の周囲すべてに落とし穴を掘っていたしょーたろーが、落ちたアサシンたちの前でゆっくりとバックパックから何かを取り出した。
「アップデートで罠設置スキルが実装されたのはアサシンなら知ってるはずじゃないですか」
爆弾だった。
深く掘られた墓穴めがけて、しょーたろーが丹精込めて作ったお手製の爆弾を投げ込んだ。
爆音が鳴った。
塹壕の中ではじけた火柱が、「DEAD」の文字とともに突き抜けるように吹き上がっていった。
宙に蹴り飛ばされたハルが頭から地球へ戻ってくるころには、大勢は決していた。
あたり一面に、半透明になったアサシンの死体。
風に乗り鼻を突き抜ける硝煙の匂いと、燃え広がった炎が平野を埋め尽くしていた。
「こんな……ッ!」
炎に照らされる中、突っ伏したNINJAが半泣きで吠えた。
「剣と魔法のファンタジックVRMMOでこんな紛争地帯みたいな状況になるなんてどういうことなのッ!!!」
わかる~。俺もなんなんだか全然わかんねえわ~。
「即席のギルドなんて作ってもこんなもんだよねぇ」
小島を取り囲む激流から飛んできた水しぶきが熱せられた銃身にあたり一瞬で水蒸気になる中、ジャムるおじさんがあっさりした声を上げていた。
「ギルドウォーのために寄せ集めたって、いつもPT組んでる長い付き合いの連携には勝てるわけもないよねぇ」
「現役時代の死線にくらべればこんなものは出店の射的程度にすぎんな」
「あの時は、つらかったねぇ……」
ゴノレゴとジャムるおじさんが何かしみじみと話をし始めている。
「そう、あのときは本当に――」
「あ、そういうのはいいです。本当にいいです」
謎の回想に突入しそうだったので俺は無理くりとめた。
「さて」
ゴノレゴが銃身をNINJAに向けた。
「敗北を認めるか、死か。好きなほうを選べ」
「くっ……!」
NINJAが声を漏らした。
「殺せッ!」
こんなうれしくないくっ殺そうそうないわ。
「あれ?」
爆弾を握るしょーたろーから小さく驚いたような声が上がった。
「そういえばモブ子さん見えないですね」
「え?」
そういやモブ子がいない。
なんかわけのわからんカポエラの後あいつどうな――
「勝敗は決した!(小声)」
突然の声だった。
突然現れたモブ子が、突っ伏したNINJAの背中をむちゃくちゃ肉を切り裂く効果音を立てながら真っ黒に塗り固めた忍者刀で深く貫いていた。
「お前……ッ!」
崩れ行く半透明になったNINJAから、モブ子が刀を抜きぬぐうように血を払った。
「……拙者は、狙っていた(小声)」
モブ子が、静かに口を開いた。
「そう。拙者は、この時を待っていたのだ。真のアサシンギルドであるお前たちの勝利を確実にするべく、拙者はアサシンとしてこのギルドに潜り込みスパイとして
モブ子がそっと俺に右手を差し出した。
「ヒロ。すまなかったな(小声)」
モブ子の目が、涙をたたえていた。
俺は、爆弾を持ったしょーたろーと無言でうなずきあった。
モブ子の右手を強く握り、
縄で縛って激流へ放り込んだ。
「エリアボスを狩るのには拙者がいたほうが絶対に有利なんだぞ! このバカ!(小声)」
「知るかボケ! 死ねッ!」
流されていく
「さて」
ゴノレゴが使ったばかりの銃身を、油のしみ込んだ布で拭きながら口を開いた。
「エリアボスが沸くまで待機だな」
「いや」
ジャムるおじさんから、小さく驚いたような声が出た。
「その必要はなさそうだね」
突然だった。
遠く、下流へ流され姿を消しかけていた真っ黒なユダが、突然川から跳ねるように突き出た巨大な何かに丸ごと飲まれるように食われた。
「ひょ~☆」
後ろから声がした。
砲丸投げ選手権から(砲丸として)戻ってきたハルが、目の前の大惨事を見ながら面白そうな声を上げていた。
「
最後にこんなクソでも役に立ったんだなとか思っていた俺だったが、正直そんな余裕はあまり残っていなかった。
目の前を飛ぶ、新たに出現したエリアボスであろうそのモンスターにひるんでしまっていた。
巨大な、まるで蛇を何十倍にもしたかのような長さの、真っ青なうろこでおおわれたドラゴンだった。川底から突き上げるようにモブ子を丸呑みしたドラゴンが、水しぶきをあげながら小島の上空を舞うように飛びあがっていた。
咆哮が上がった。
俺たちなんて一切気にしてもいない。そんな暴君のように上空でただ一人舞うドラゴンのくせに、それでいて自分以外のもの全部ただ殺すためだけに叫ぶ。そんな声を放った。
「これはまた狩りがいのありそうな相手なことで」
ひるんでいた俺のとなりで、相変わらずの落ち着いた声をジャムるおじさんが上げていた。
瞬間、何かが光った。
一筋の光の槍だった。
空を舞うバカでかいドラゴンの頭を、空から隕石のように落ちてきた一筋の光の槍が一瞬で貫いた。
「なんだッ!?」
地面へと落ちた光の槍が、燃えさかる平原の炎をその衝撃波で一瞬で消し飛ばしていった。
「――――ッ!!!☆」
衝撃波で目を閉じた中、ハルから小さくうめきが上がった。
ゆっくりと、俺は目を開けた。
空に、頭を貫かれたドラゴンがいまだ舞っていた。
その巨大なドラゴンのさらに奥、空中に、真っ白なローブを身にまとった一人の光輝く「ヒーラー♀」が飛んでいた。
ハルの様子が、おかしかった。
いつもの「バカで~す☆」みたいな表情は消えていた。
静かな怒りと憎しみを込めたようなドスのきいた声をハルが、静かに強く放った。
「バ美・
「お久しブリブリブリ大根ですわ、クソハルさん」
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