5. 絆のVRMMO(笑)がお送りする最新のコンテンツそれはギルドウォー!
「
火柱が消えた後の島の中で、一人残された戦士が背後からわけのわからない叫びとともに強烈な一撃を食らったのが見えた。
ゆっくりと、半透明になりながら戦士が沈んでいく。
動かなくなった半透明の「DEAD」の上で、一撃を打ち込んだ「何か」が気持ち悪い速度でくり返しスクワットをしていた。
間違いない。
モブ子だ。
あんな高身長の、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束の
「こんな島にまできてPKやってんのかお前は……」
「お(小声)」
蓮の葉から上陸した俺に、スクワットで死体蹴りをしていたモブ子が気が付いたように声を上げた。
「久しぶりだなヒロ(小声)」
「お前BANされたって聞いたんだが」
「BANではないログイン停止だ。そしてついさっき喪は明けた。拙者の
相変わらず全く意味が分からん。というかその超高速スクワットいい加減やめろ。
俺の視線に気が付いたようにモブ子が口を開いた。
「安心しろ。拙者が行っているのはギルドウォーであって別に『離れ小島連続殺人事件』を引き起こしているわけではない(小声)」
「ギルドウォー?」
「ギルドウォーだ(小声)」
よく見たら野球スタジアムくらいの広さがある小高い小島の中に、半透明になった死体が全部で5人ほど転がっていた。
こんなところにきてまでギルドウォーってやる必要性ある? 中毒者かな?
「そう! そればギルドの利権を賭けた決死の決闘! ギルドウォー!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
あまりの現象に俺は叫んだ。
突然、俺の目の前にモブ子と似たような恰好をした男の忍者が現れたので。
本当に息がかかるくらいの至近距離で。
吐く息が生暖かい……。頼むからもう少しまともな登場の仕方をしてくれッ!
「お前たちはここがどこだかわかってきたのか?」
キスする寸前の距離で食いつくように忍者が質問を始めた。
「エリ――」
「そう! ここはエリアボスが沸く新たに実装されたウォーターガーデンの一等地!」
突っ込む気力がわかなくなってきた。
「つまり! まだここにたどり着く人間もほとんどいない未開でありながら最高金賞の土地! そこを我がギルド
「何いってんだこいつ~☆」
すべてをスルーしていた俺の代わりにハルが心の声を代弁していた。
だがNINJAは何事もなかったように続けた。
「だが幸いなことにお前はギルドに未加入のアサシンのようだな」
「はぁ」
「ならば我がギルドに入ればよい!」
すごい勧誘の仕方だな斬新すぎるわ。
「そうすれば! 我らアサシンはともにここを占拠し、PTにはアサシンなんていらないし~なんていってたクソどもを排除しながらアイテムを独占できるのだ! どうだ!?」
ドン引きです。
俺は、もうあえて何もつっこまないことにした。
キメ台詞を放ったように固まったNINJAを前に、俺たちは無言でうなずきあって振り返った。
「じゃあお言葉に甘えて」
「まて」
島に上陸しようとしたハルの前に、NINJAが立ちふさがった。
「おまえだけはダメだ」
「そんな気はしてた~☆」
「まあ、いいんではないか?(小声)」
いまだに死体の上でスクワットを続けるモブ子から思いがけない言葉が出た。
「そこの魔法使いは
「しかし魔法使いには変わりない」
「違います!」
かたくなに立ちふさがるNINJAを前に、決心したような表情のしょーたろーがズンズンと突き進んでハルのフードを掴んだ。
そして地面へ向かって全力で投げた。
「ほう……」
「見てくださいこの地面のえぐれかた!」
ハルがものすごい勢いで頭から地面に突き刺さっていた。
「これは! 僕たちがボスクラスを倒すのに毎回使う、絶対に壊れない最強の投擲武器なんです!」
「死なすぞお前~☆」
「しかし……やはりだめだ」
NINJAが少しだけ躊躇(する必要あった?)した後、悩んだように口を開いた。
「このアサシンだけで構成されたギルドにほかのジョブが入ることは美しくない」
「こんな状況にしといてダメってありえる~?☆」
地面に刺さったままのハルから抗議の声が漏れていた。
「えっと」
全員がハルに視線が集まっていた中、俺は口を開いた。
「じゃあ、別に俺もいいっすわ」
「ほう(小声)」
「別に、俺らここでエリアボス見るだけでいいっすわ。遠くから見るだけなら、別にこいつもいていいだろ?」
「それでいいのかい?」
後ろから声がした。
コック帽をかぶった、ふわふわの真っ白な髪と口髭をしたおっさんだった。
そしてなぜか一緒にいる極太眉毛――ゴノレゴ。いかだで落ちた後ここに死体が流れ着いたのだろうか。何はともあれ無事救難信号には対応できたようだ。
「俺は、そもそも別にボスを倒したいわけじゃないんで」
「そういうことじゃないんだ」
コック帽のおっさんが、割り込むように口を開いた。
「君はそれでもいいんだろうけど、君はそのPTのリーダーなんだろう? 君のPTメンバーが本当にそれでいいのか、ちゃんと考えているのかい?」
突然の道徳的質問に、俺は詰まった。
痛い視点だった。まさかこんなゴノレゴの連れに人道的なことを説かれるとは思ってもいなかった。
「私は別にいいよ~☆」
地面の中から声がした。
「みんなギルドに入ってエリアボス狩ってきなよ~☆ 別に次がないってわけじゃないんだしさ~☆」
「ハルさん……」
地面に突き刺さった
「次があるかどうか、わかったもんではないがな」
白い口髭のとなり、極太眉毛のゴノレゴが口を開いた。
「ギルドウォーで占有したギルドだけが狩れる。そんな粘着上等の仕組みになってしまったのなら、ここへくる正規ルートが知られてしまえば廃ギルドが押し寄せてくるだろう。そうなれば今よりもより厄介になるだろうな」
冷静なゴノレゴの言葉に、NINJAもろとも全員が沈黙した。
沈黙に耐えられなくなったように、俺から言葉がもれた。
「だからといって、どうしろっていうんですか」
つい、愚痴のように俺の口から言葉がこぼれた。
言った後、すぐに後悔した。
我ながら情けない発言だった。どうしろっていっても、どうすることもできるわけがない。だからといってこれじゃ逆ギレにしか過ぎない。言ってる自分で、言ったそばから失敗したと思った。
突然、笑い声がした。
コック帽のおっさんだった。
相変わらず謎の笑顔のまま、あたり一面に聞こえるように笑った。
「困ったときには人に頼るものだよ」
となりにいたゴノレゴがつられるように軽く笑った。
「やはりそうするか」
「もちろんじゃないか」
何の話か全くわからなかった。
気が付かなかった。
突然、どこから取り出したのか見当もつかないほどの大きな二丁の「アサルトライフル」を、コック帽のおっさんが両手に構えていた。
「わざわざ今あるこのベストギルドを解散してまで他のギルドのおこぼれをもらいたいとは思わないからねぇ」
「俺たちはすでに太い絆でつながっているからな」
同様だった。
うなずいたゴノレゴの手にもまた、どこから取り出したのかも検討が付かないほど巨大なスナイパーライフルがにぎられていた。
「どういうことなんです……?」
俺から出た小さな質問に、二人のおっさんが満面の笑みで笑い──
同時に叫んだ。
『奪い取ればよかろうなのだ!』
「ふっ」
様子を見ていたNINJAから、本当に、さも楽しくて仕方のないような軽い笑いが出た。
「さすがはアサシンだな……。服従するくらいならば死を選ぶ。それが暗殺者のさだめ」
「当然だな(小声)」
当然なのか? ちょっと展開が理解できないぞ?
「あんたたち二人しかいないのに何考えてるんすか……」
「ほう」
「おや?」
場のクセの強いアサシンたちから一斉に疑問の声が上がった。
「俺たちは見込み違いをしていたのか?」
「彼らは気が付いていないだけなんだよ」
ゴノレゴとコック帽のおっさんがライフルを構えたまま笑った。
はっ……!!
俺の……!
俺の通知欄が光っている……ッ!!!
「そういうことか……ッ!」
無意識に。
無意識に、俺はしょーたろーと顔を合わせていた。
お互いに無言でうなずいた。
決意した笑みのまま、ウインドウに光る要請への承認を、叩きこむように押していた。
『ギルドへの加入要請を承認しました』
俺の頭の上にギルドの名前が表示された。
【ギルド名: สมาคมนักฆ่า】
え? 何? なんて読むの? これ。
このテンションでどうしてこういうことをするかな~?
ついでに両手にマシンガンを構えたコック帽のおっさんの上に「ジャムるおじさん」という名前が表示された。
決め顔のゴノレゴとジャムるおじさんの声がハモった。
『俺たちは!!! 正式にギルドウォーを申し込むッ!!!』
「よかろう!!! 受けてたとう!!!」
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