7. そしてアサシンは " Legend 伝説 " へ ~ なぜなら死んだからです

 俺の右手から投げられたピンク色の悪魔は燃えさかるブレスを切り裂きながらヒドラの頭を貫いて爆発した。

 なぜかわからないが3本の頭のうち1本を貫いたはずなんだがついでに残り2本も爆発した。


「終わったな……」

「終わりましたね……」


 俺の言葉のあと、しょーたろーが感慨深く同調していた。


「ハルさんが投擲とうてきスキルの対象になるなんて思いませんでした」

「人間って武器になるんだな……」


 俺たちの前にふわっとした光が現れた。


「お」

「これ! エリアボス専用レアドロップの指輪です!」

「これが……」


 目の前でふわふわと浮かぶ光る指輪を手に取った。



■ 力の指輪


 効果:

 装備したもののSTRきんにくVITたいりょくに補正をかける。INTかしこさMAGまりょくが若干下がる。



「なるほどね~」


 空きのできやすいアクセサリー系のスロットに装備したらお得って感じっぽい。


AGIすばやさの補正がないのがアサシン向きじゃなくてつらいですね」

「まあVITあって損はしないしいいんじゃねえかなぁ」


 そんなこと言ってると、ヒドラがいたところの地面が強烈な爆発音を出して吹っ飛んだ。


 爆発じゃなかった。

 なんかが落下した衝撃で、地面がえぐれるように陥没して土煙がもうもうと立ち上がっていた。


「ヒィ」


 しょーたろーから変な声が漏れた。


 ゆっくりとおさまっていく土煙の中から、ピンク色の髪をした悪魔が満面の笑みをうかべたまま現れた。


「てめぇら~☆」

「ハル!」


 俺は、感動していた。

 気が付けばハルに向かってダッシュしていた。


 こんなVIT極振りとかいう頭のおかしい魔法使いがこんな形で大活躍するなんて思ってもいなかった。間違いなくヒドラを倒せたのはこいつのおかげだ!


「お前のおかげで勝てたぜ!」

「ストレングス~☆」


 ハルが謎のステッキをくるくる回した。

 ハルの青くなった名前に「STRが激増しました」という説明文が出た。


 え?


 ハルがさらに回転しながら呪文を唱えた。


「ライズ~☆」


 ハルに光が結集しだした。

 同じく「STRとVITが倍になりました」という説明が――


「ちょ――」


 ヤバイヤバイヤバイこいつ何考えてるッ!?


 なんだこの威圧感オーラはヒドラの比じゃねえぞ――当たり前だ!

 ヒドラを生身で貫通してぶち殺したんだからこいつはヒドラより絶対的に強いに決まってるッ……!


 いや、でも俺はAGIにもふってるいわゆる標準的な「アサシン」だ、かわせばいいんだこんな魔法使いのDEXきようさなんてたかが知れて


「レプリカ・聖剣~☆」

「はぁぁぁぁああああっぁぁあ?!!!!!!」


 なんでそんなもん持ってんだこいつはッ……!!!!



 ――― 斬! ・ 鉄! ・ 剣! ―――



 説明しよう!!

 「斬鉄剣ざんてつけん」とは聖剣に付属する固有スキルで相手の防御力・回避力を無視した「絶対必中」の地獄のようなスキルなのだ!! レプリカ品であっても1回だけなら打てるぞ!


「死ねクソアサシンがぁぁぁぁぁ!!!」

「☆が語尾から消えてるッ!!!」


 一瞬で詰め寄られた俺はレプリカ聖剣といっしょに一瞬で粉みじんになった。







「ヒロさぁぁぁぁぁぁあぁぁぁん!!!」


 粉みじんになった俺の近くでしょーたろーがクソでかいバックパックから復活薬を取り出していた。


 っていうか粉みじんになってるのにそれが見えるってすごいよね。こういうところはプレイヤーにやさしい仕様にしてくれてるVRMMOってすごい親切だと思う。


 取り出した復活薬と俺(の残骸)を見ながらしょーたろーが混乱していた。


「……口がない!」


 粉みじんだからね!


 しょーたろーが少し迷った後、粉みじんになってる「死体」(まだこれでも死体扱いのようです)におそるおそる復活薬をたらし始めた。


「おお……」


 俺は復活した。


「ふぅ~☆」


 ハルがくるっとターンを決めてピースのような何かを目に当てた。


「すっきりしたよ~☆」

「あんたマジなんなんすか……」

「魔法使いだよ☆」


 俺の中の魔法使いの概念にはこんな脳みそフローラルな物体は存在していない。


「やったな(小声)」

「哲也↑です↑」


 ヒドラの跡地から、モブ子と哲也が達成感の表情を浮かべながら(モブ子は見えませんが)俺たちのほうへ歩いてきた。


「やはりエリアボス戦はこうでなくては面白くない(小声)」


 それはさっきのMPKも含まれていますか。


「ハル殿にヒロ殿、さすがであったな。最後のヒドラへの一撃、なんとカンストダメージをたたき出していたぞ(小声)」

「カンストダメージ?」

「おや?(小声)」


 混乱する俺の前でモブ子が続けた。


投擲とうてきスキルは投げたもののSTR以外に、残HPもダメージ判定が加算されるんだぞ(小声)」

「え????」


 俺としょーたろーがピンク色の悪魔を見た。


 ハルがよくわかってないはずなのに満面の笑みでピースをしている。


「VITが高いから壊れる心配もないのが安全安心!(小声)」


 完全に武器扱いで話が進んでる。


「つまり……」


 しょーたろーがつばを飲み込みながら声を出した。


「ハルさんを投げまくれば僕たちはみんなカンストダメージが出せるってことですか……?」

「お前も粉みじんになってみるか~?☆」



 *



 あの後俺たちは、エリアボスの跡地にできていた地上に出られるワープを使ってダンジョンを出た。平原のど真ん中で最後の会話をしていた。


「やはりPTというものはいいものだな(小声)」

「哲也↑です↑」


 モブ子と哲也がしみじみとうなずいている。


 変な連中だった。モブ子は頭がおかしいし、哲也は結局何いってんのか全然わからねえしっていうか哲也以外の言葉しゃべってるの一回もみなかったな。


 でも考えてみたら、こいつらが最初にPT申請してくれなければソロ狩りで終わってたんだよなぁ。


「意外となんとかなるもんですね! むちゃくちゃ楽しかったです! それに指輪もてに入ったし!」


 ドロップした指輪を早速装備したしょーたろーが、満面の笑みで声を出した。


 通知が飛んできた。


「お」

「これは(小声)」


 通知を開いた。

 フレンド申請がしょーたろーから届いていた。


「またPTしましょうよ! 僕たちアサシンでPT組みづらいけど、こんなPTならいつだって参加しますよ!」

「そうだな!」


 俺も笑ってほかのメンバーにフレンド申請を送った。


 実は俺はちょっと感動している。

 このVRMMOを始めてから、初めてのフレンド申請がこいつらだったりしたのだ。


「ハル殿はどうするのだ?(小声)」


 モブ子の声に、全員の視線がハルに集まった。


「そのステータスでは、ソロ狩りはきついだろう(小声)」

「ん~☆」


 予想外にハルが言葉を迷っていた。


「ハルはちょっと目的があるからね~☆」

「そうか(小声)」

「お」


 通知が再び来ていた。


 ハルからのフレンド申請だった。


「えっ」


 しょーたろーから驚きの声が上がった。


「ハルさんLV66もあったんですか」

「そうだよ~☆」


 驚いた。

 フレンド欄のハルというところに、「LV66 魔法使い」というのが表示されていた。


 ははっと笑った。そりゃ強いわけだ。

 って思ったがおかしい。どう考えてもおかしい。


 LV66でHPがカンストする魔法使いがいるわけがないッ……!!!


 そっと、ハルのプロフィールのところを長押しした。


 俺は目を疑った。

 恐ろしいワードが書かれていた。


【ハル 魔法使い】

【状態異常: 呪い(3種)】


「呪い????!!!!」

「見られたか~☆」


 ハルがくるっとターンをしてポーズを決めた。


「ハルはね!☆ 呪われてるんだよ!☆」

「はぁぁぁぁぁああぁぁぁ?」


 突然、哲也が笑いながら手をたたき始めた。


「哲也です↓」


 俺は無視した。


「なんなんすかこのゲロヤバイワードは」

「最初に加入した廃PTが激ヤバ連中しかいなくて、高効率レベリングをするためにハルはいけにえにされてしまったのだ☆」

「は?」

「ふふっ☆」


 ハルが再度ターンを決めた。


「もっと仲良くなったら教えるね☆」

「さっき俺を粉みじんにしておいてよくそんなこと言えんね」

「もう一回してやってもいいんだぞ☆」



 *



 俺たちはそのあと解散した。


 相変わらず俺はソロ活動ばっかりだ。アサシンのPT需要なんてこの世界には存在してないし、こっちから言っても乾いた笑いで反応はクソ悪い。アサシンには人権というものが1ミリも存在していないことはわかってたことじゃないですかッ……!!


 モブ子は一時期制裁BAN食らってたし、哲也は相変わらず裸みたいな恰好で大剣振り回してる。しょーたろーは手に入った指輪が魔法の指輪だったからか今はハイポーションまで合成しはじめている。どうして君たちアサシンなんて選んじゃったの?


 ハルはあれからどうしてるのかわからない。

 が、フレンドリストを見るとオンラインのときをよく見るので、どっかでまだ呪われてるんだろう。


 密林からサーペントが飛び出してきた。

 俺は軽く身をひるがえしてサーペントに一撃を入れた。あっさりとサーペントがヘビの開きのようになって砕け散った。

 いつのまにかLVも上がったもんだ。


「お」


 通知が来た。なんだ?


 俺は背筋に悪寒を感じた。


 ―― PT申請が来ているッ……!! しかも無言でッ……!!


 俺はとっさにあたりを見回した。何一つ姿が見えなかった。


 ―― このパターン……! 俺は知ってるッ……!!


「また会ったな(小声)」


 全く何もいないところから、声がした。


 さすがに慣れてきた俺の目の前で、ゆっくりとハイドを解いたプレイヤーの姿が現れた。


 高身長で、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できないあたまのおかしいセンスをした「アサシン」だった。


「そろそろ第3回アサシンだけのエリアボス特攻大会「アサシンク〇ード」を開こうと思うんだが(小声)」

「あれを第2回にカウントするのはやめろ」


 俺はウインドウに手を伸ばした。

 当然のように、俺はPT申請を断ろうとして



 承認を押していた。



 自分の頭の上に青色の「!」が飛び出してきて俺は笑った。


「PT組むのなんてまた一週間ぶりだぜ」

「ほかのメンバーにも声をかけなければな!(小声)」


 そういってモブ子がまたハイドした。


 俺はフレンドリストにいるあいつらにPT加入要請を送った。


 一息ついて、俺は笑いながらモブ子に言った。


「んじゃ、また俺たちアサシンだけの激マゾPTでもやりますか」

「乗り気じゃ~ん(小声)」

「お前そんなキャラだったっけ……」





 俺たちの冒険じごくはまだまだ続くッ……!!

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