6. 俺のッ……!! 俺たちのアサシン偏差値は最高におかしいんだぜッ……!!

 とりあえずなんだかよくわからない陽キャ(笑)っぽいPTは全滅したらしいことだけはわかった。


「問題はあのヒドラをどう倒すか、だ(小声)」


 モブ子がいつになく真剣に話している。


 そりゃそうだ。あのPTを虐殺したのはお前だ。責任とってこの先のことを考えてくれ。

 あと運営に通報されてたら俺は無実だとちゃんと証明してくれ。


「でも、いけるかもしれませんよ」


 しょーたろーがヒドラを見ながらいった。


「あのヒドラ、HPゲージがあと10%程度しかないです」

「すげえところでMPKモンスターPKしたな……」


 哲也が俺の肩をトントンとたたいた。


「哲也です↑」

「ん? あ、そうか――」


 俺ははっとした。

 あと少し削るだけでいいなら、STR極振りの哲也がひたすらにぶちかますだけでいいのか。哲也が肉片にならない限り。


「拙者の闇の処刑パニッシュメントは高速で3回まで連打できる(小声)」

「え?」

「打ち込んだ後、拙者の魂の叫びでハイドと闇の処刑パニッシュメントを繰り返す。高速のノーモーション闇の処刑パニッシュメントが闇の中で舞うように繰り出されるのだ(小声)」


 何いってるのか全くわからんがとりあえず3回打てるらしい。多分MPの最大値の関係なんだろう。


「問題は、ヒドラのタゲを誰がとるかですね」


 しょーたろーが冷静に口を開いた。


「あの強烈な炎、範囲攻撃で打たれたら多分みんな死んじゃいます」

「火を噴く前に打ち込む?」

「それが一番ですけど、打たれたら死にます」

「う~~ん」


 俺としょーたろーの視線が同時に一点に集中した。


 ピンク色の悪魔が、緊張感のない笑いを浮かべていた。


「やっほ~?☆」






 作戦は決定した。


 ヒドラは通常攻撃を連打してくるが、基本的には単体攻撃だ。

 単体攻撃ならAGIすばやさ型のアサシンである俺がかろうじてかわせるかもしれない。もしダメージを受けたとしても、しょーたろーから常時ポーションを投擲とうてきスキルで俺に投げてもらう。俺はひたすらそれを金魚すくいの金魚のように口から流し込んで消化するッ!


 ただ範囲攻撃が厄介だ。

 ヒドラはブレスを吐く前に吸引モーションに入る。そうなったら


「まっかせろ~!☆」


 ハルが全力の笑顔でポーズをとった。


「ハルが突撃して炎を防ぐ(物理)よ~☆」

「いや単体攻撃も全部こいつでいいんじゃないか?」


 心の声がめっちゃくちゃ出ていた。


「多分1ミリもダメージ受けない気がするぞ?」

「ハルさんはヘイト取れないんで」

「ああそうか」


 しょーたろーがきっぱりと切り捨てた。


 ヒドラのターゲットをとるには、攻撃をしかけてヘイトを稼がなければならない。俺がヘイトを稼がないとダメなんだった。

 その点俺は投擲型のアサシンだ。遠距離から投げダガーをひたすら連打することは俺のプレイスタイルにもあっている。


「よし、いくか!」


 とりあえず俺たちは全員武器を握りしめた。


「俺たちアサシンの力を見せてやろうぜ!」

「魔法使いもいるよ~☆」






「死! それは甘美な芳香!(小声)」


 ヒドラの背後からモブ子が闇の処刑パニッシュメントを打ち込んだところから口火が切られた。


 モブ子に一瞬タゲが向くが、奴は常にハイドするので放置していい。

 問題は哲也だ。


「哲也↑です↑」


 ハルの(数少ない)補助魔法のおかげでゴリゴリのSTRになった哲也がヒドラの足を吹っ飛ばした。


 すかさず俺はダガーを投げた。哲也にタゲがいってしまっては哲也が速攻で肉片になる。


「来たぞ!」


 思った通りだった。

 タゲがこっちに向いていた。ヒドラのクソでかい張り手が俺の頭をかすめるように過ぎていった。


「いけるんじゃないか!?」


 そういった瞬間、俺は後ろから何かに強烈に叩き潰された。


 ヒドラのもう片方の手だった。

 後ろからモロに一撃を受けた俺は、一瞬で地面にめり込んで即死した。


「ヒロさん!!!!!!!」


 叫びながらしょーたろーが駆け寄ってきた。

 クソでかいバックパックから光る液体の入った小瓶を取り出して、「死体」という状態表示になっている俺の口にぶち込んできた。


「ッハッ!」


 飛び跳ねるように起きた俺は本能的にヒドラにダガーを投げていた。哲也にタゲが向くのを阻止しなければ全部が終わる。


「復活薬はあと1つしかないです!」

「これ無理じゃねえかな!?」


 再び飛んできたヒドラの手をかわしながら俺は叫んだ。


「哲也↑です↑」


 哲也がさらに打ち込んでいた。ヒドラの背の上でモブ子がなんだかよくわからない奇妙なモーションを繰り返してヒドラに闇の処刑パニッシュメントを打ち込んでいる。


「無理とか言わないで頑張ってください!」


 そうだ。

 無理とかいってる場合じゃない。ヒドラのHPゲージはもうあとわずかだ。


 ここまで来たらやらないといけない。この壊滅的に頭がおかしいアサシンしかいないPTでここまで来たんだ。俺がこのPTのリーダーなのだ。

 俺が頑張らないでどうするんだ!


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


 俺は走った。

 ピンク色の悪魔めがけて走った。


「ほえ~?☆」

「俺は……!! 俺たちは絶対に勝つ!!!」


 ハルの後頭部からぽやっと飛び出しているフードを全力でつかんだ。

 左手で持ったまま、俺に向かって突っ込んでくるヒドラの張り手に突き出した。


「これがッ! 俺の最強の装備だッ!!!!!!!!」


 ヒドラの巨大な張り手が、ピンク色の悪魔に当たったかと思うといきおいよく反射して吹っ飛んでいった。


 思った通りだった。

 こいつハルは盾にしたら最強の防具になるッ!


「ヒロさん!」

「おう!」

「人権って知ってる~?☆」


 ヒドラが吸引モーションに入った。


「ブレスが来ます!」


 しょーたろーが叫んだ。ヒドラのHPはもうミリもミリだ。

 これを乗り切れば俺たちは勝てる!


 俺は今、最高にこの絆のゲームを感じている……!!


「うおおおおおぉおおぉぉぉぉおおぉおおお!!!!!!!!!!!」


「いけ! ヒロ!!(小声)」

「哲也↑です↑」


 俺の右手がうなりを上げた。

 左手で握っていた物体を右手に持ち替え、全力でヒドラの頭に向かって投げた。


「いっけえぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!!!!!!」

「お前ら後で絶対殺すからな~☆」


 ヒドラがブレスを吐いた。


 右手から放たれたピンク色の悪魔が、炎を切り裂きながら貫通しブレスごとヒドラの頭を吹っ飛ばした。

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