第5話 何もかも終わった朝
次に正気を取り戻した時、そこには動いているものが誰もいなかった。あれ程いたヴァンパイア達はひとり残らず倒れている。この状況に頭が混乱したものの、服や身体に付着している返り血を見て何が起こったのか、何を起こしてしまったのかを理解した。
「これを全部……僕が?」
「ああ、間違った目覚め方をしたな」
「父さん!」
父、ヴォルゲン伯爵は血を吸われて干からびた状態で倒れていた。ヴァンパイアでも五本の指に入る実力者を――僕が?
「力の目覚めには感動したぞ……。だが負かされるとはな。想像以上だった」
父はそう言い残すと意識を失った。真祖の力を持つ者は倒れてもすぐに復活する。不死身と言っていい程の能力の持ち主だ。そのはずの父が倒れ込んでまぶたを閉じて動かなくなってしまうだなんて。
正気を失っている間に、僕は一体何をしてしまったと言うのだろう。
一番の強者がその状態と言う事でも分かる通り、他のヴァンパイア達も地面に横たわってピクリとも動いてはいなかった。執事のキーゼルも、メイド長のシシリィも、メイドのリリナも、クナルおじさんも、アーシャおばさんも、アニルの兄貴も、その他、このパーティに降り立ったすべてのヴァンパイア達も――。
そこに朝日が射し込む事によって、全員が静かに燃えていく。力に目覚めたはずの僕だけを残して。
生徒達は全員助からなかった。その元凶のヴァンパイアも全員僕が殺した。朝はいつもと何にも変わらないと言うのに、何もかもが空しい。
日の光に焼かれないと言う事は、少なくとも今の僕は人間なのだろう。しばらく自分の両手を眺めていた僕は立ち上がる。
「もうここにはいられないな……」
僕は学園を去った。先の事はまだ分からない。けど、吸血鬼は他にもいる。悲しい人間の被害者は今も出続けている。それを考えると、もう生きる目的はひとつしか思い浮かばなかった。
学園を出てしばらく歩くと、見覚えのある景色が目に飛び込んでくる。
「なんだ、学園はエルトリアの外れにあったのか」
学園に転入が決まった時点で父の洗脳にかかっていた事が分かり、おかしくなった僕は顔を手で抑えながら笑う。それから、誰もいなくなった街で必要なものを集めに向かった。
僕はこれから旅に出る。ヴァンパイアを根絶やしにするために。それが僕に出来る唯一の償いだから。
(おしまい)
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