わからないなあ

ジュン

第1話

「『善く生きる』とは、どういうことでしょうか」

桐島は高木先生に訊いた。

「わからないなあ」

高木先生はそう答えた。

桐島は、高木先生の「わからないなあ」と答えた時の、その眼差し、表情、そして「わからないなあ」の後の「間」と余韻から、高木先生が「善く生きる」ということをどれだけ「わかっている」かがわかった。

桐島は思った。「わかる」ということは、どれだけ自分が「わからない」かをわかるということなのだと。

「わからないなあ」の言葉が、「この人ホントにわかんないんだな」と思わせるか、「わからないのは事実だけど、わかってらっしゃるんだな」と思わせるか、その印象の違いは、ありとあらゆることが、根本的にわかり得ないけれど、「探究心」に刺激されて、真理を知りたいと努力、研究した末、やはり「わかる」ことは叶わず、そして、感慨深く吐かれた「わからないなあ」という結論の言葉は、人に「ナントカがわかる」とはどういうことかを諭すに充分なせりふだと、桐島はそれがわかった。つまり、「わかる」とは「わからないなあ」こそが真理なのだとわかるに「至った」「長い道のり」を「経て」、たどり着く悟りの境地を指すのだということが、桐島はわかったのだった。



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わからないなあ ジュン @mizukubo

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