あの夜は

星を映すあの人の瞳を見上げていた

透き通った空気が私とあの人との間にあった

それはきっと偶然の出会いだったのだ


あの人は望遠鏡が好きで、私は星座盤が好きで

あの人は乙女の涙スピカが好きで、私は蠍の心臓アンタレスが好きで

あの人は三日月が好きで、私は新月が好きで


暗い川の底に生じた泡が触れあって弾けるように

ほんの一瞬だけ交わった私たちの軌跡は

小さな小さな波動を生じさせたのだ


夜空を見上げたまま交錯する視線も

二人の間にある無音も

その全てが特別で、完全で、美しかったから


きっとあの夜は、それが正しい形だったのだ

宙を泳いだ私の指も

あの人が触れた望遠鏡の温もりも

それがきっと、あの夜の正しさの全てだった

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