黒髪の君

指が痛い

恋の獣に齧りつかれて

朝焼けの街をさまよい歩く俺は

煙草の煙に肺を冒され

麻痺した鼻の奥にさえ感じる

黒髪の君の残り香を求めて

じんじんと痛む指を摩りながら

電信柱の影にさえ

君の気配を求めてさまよう


真横から差す太陽に灼かれて

長い影を伸ばす俺の惨めな背中を

獣の足音だけが追従する

ひたひたと朝焼けの街をさまよう

俺の後ろを獣がついてくる

緑色の酒瓶が割れて散らばる路地裏に

まだ花開いたばかりの蒲公英がうずくまり

その茶色く焼けた茎を手折って掲げる

黒髪の君がそれを差す姿を夢想して


背筋は曲がり

吐息は腐り

こんな俺の姿を見て

君は俺を蔑むだろうか

その可憐な唇が

俺を侮蔑して歪むだろうか

それでもいい

それでもいい

君の濡れた瞳に俺の姿が映るなら

ああ

指が痛い

恋の獣に齧りつかれて

朝焼けの街が俺を嘲笑っている

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る