ハンカチ

 チャンスだと思った


 小さくて、かわいくて、きれいなあの子

 リンゴのような頬には、いつも可憐な笑顔が咲いて

 柔らかな髪の毛は、さらさらといい匂いを風に乗せて

 歌う声はいつだって、色鮮やかな光を放つ


 かわいいあの子

 憧れのあの子


 僕はいつだってあの子を見ていた

 見てはすぐ、視線を逸らした

 灰色の僕

 醜い僕

 足元には青黒い影が落ちて

 野太い手足はのろのろとしか動かなくて


 僕はいつだって、あの子が眩しくて

 背中にへばりつく自らを嘲笑する声と

 足元を沈み込ませる汚泥のような軟弱を

 僕は目を瞑って振り切って

 自分の中の、全ての勇気を振り絞って


「あの、これ、落としましたよ」


 その小さな布切れを、拾いあげた

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