揺れる。
九重 壮
揺れる。
歓楽街のキャッチにつかまって、気づけば会計が7桁をこえていた。
それから気づけば大男に囲まれていて、それから、それから。
気づけば船に揺られていた。
甲板で大の字になって曇り空を見ている。
あの日の服のまんま。
ライフジャケットを着せられて。
いつか聞いた借金取りのカニ漁船の話を思い出した。
潮の風が吹く。
少しして乗組員の一人が近づいてきた。
知らない言葉でしばらく喋ったあと、片言でハタラケと言う。
聞こえないふりをして、再び目を瞑った。
それから船がとても揺れて、彼らが何か叫ん
で、それから、それから。
気づけば何かに揺られていた。
目の前に広がる群青の空を見ている。
あの日の服のまま。
シートベルトをつけ、パラシュートリュックを背負っている。
隣の軍服を着たパイロットが何かを話す。
分からないけど、きっとロシア語。
遠い昔のシベリア送りの話を思い出す。
それから彼らが口々に騒ぎだしたと思ったら機体が大きく揺れて、それから、それから。
気づけば体が小刻みに揺られていた。
シートベルトをつけ、宇宙服を着ている。
雑音混じりの通信から聞きなれた外国語が聞こえた。
大げさな10カウントの0に合わせて、体に強い負荷がかかる。
あの日のままの服が宇宙服の中で肌を撫でて。
それからロケットが揺れた。
揺れる。 九重 壮 @Epicureanism
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