信じたものが運命

シヨゥ

第1話

 短期間になんども出くわすと運命を感じてしまう。示し合わせたわけではない。時間も場所もバラバラなのにも関わらずこうやって出くわしてしまった。

「なんだか、よく会いますね」

 彼女も同じ思いを持っているようだ。はじめの数回は互いに視線を交わすだけだった。それがここ数回は会釈をするようになり、そしてついに彼女が話しかけてきた。

「そうですね」

 これには返事をせざるを得ない。

「お仕事ですか?」

「はい。外回りであっちこっち行ってまして。そちらは?」

「ぼくも仕事で。今週は忙しくていろんなところに足を運んでます」

「なるほど。あっ、これもなにかの縁ですからこちらどうぞ」

「これはどうも」

 差し出されたのはハンカチだった。

「サンプル品なんですけど作りすぎてしまって。貰っていただけるとありがたいです」

「それではありがたく。それでは貰ってばかりも悪いのでこちらどうぞ」

 ぼくからもハンカチを差し出すと彼女の動きが一瞬止まる。それからハンカチとぼくを交互に見はじめた。なんだかおもしろい。

「ありがとうございます」

 彼女はハンカチを受け取ってくれた。

「もしかして御同業だったりします?」

「そのようですね」

 何度も鉢合わせする理由が分かった気がした。

「きっと担当している先が似ているんでしょうね。だから、こうやって何度も会うんでしょう」

「そうですね。まさか商売敵だったとは驚きです」

「商売敵なんて言わないで仲良くしましょうよ。狭い業界何が起きるかわからないことですし」

「それも、そうですね。このあとお時間は?」

「ちょっと空きますね。そちらは」

「私もです。軽く商談なんてどうでしょう?」

「情報交換というわけですか。いいですよ」

「それじゃあ……あそこの喫茶店でお話しましょう」

 これを運命的な出会いと言っていいのかは定かではない。だが、運命と思ったほうが彼女との話に前のめりになれそうな気がした。だからぼくはこれを運命だと思うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信じたものが運命 シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る