第29話新米冒険者2

「ふむ・・・」


「暗いね」


松明をもってパーティは地下を進んでいく。松明に照らされた下水道は不気味に静まり返っている。


ビックラッドは獣なので夜目がきく、気を付けて少しでも気配を殺して一同は進んでいく。


「スラ子、下水道に落ちるなよ?」


「うん。もう臭くなるのはいやだし・・・」


かなり前だがスラ子とどぶさらいの仕事をしたことがあったが、水性の体はどぶの匂いをすっかり吸収してしまいかなりの匂いになってしまったことがある。


・・・!


「センパイ!何か来ます!」


レンジャー、アリサが気配を感じ弓を構え、俺たちに知らせる。


「さすがレンジャーだな。・・・よし、何匹いるかはわからないが俺たちがフォローする。あまり前に出過ぎるなよ?スラ子、松明を持っててくれ」


「うん」


「術式展開、ショートソード!」


コバヤシは武器を召喚し構えると炎のエンチャントを先端に付ける。多少は明かりになるだろう。


「・・・すごいですね!」


「構えろ、リッド!」


キキッキキキッ!


奥の暗闇から獣の声がする。・・・これは運が悪いな、数はそれなりに居そうだ。


「行きます!」


アリサは奥に向かって気配を追って弓を放つ。


ギャッ!


数にして4匹ほどだろうか、その獣の集団は姿を現した。


「先頭は任せろ、リッドはあの1匹を仕留めてくれ!」


コバヤシは不意に武器を真っすぐに投合した。ショートソードは獣の頭に刺さり、倒れる。


「もう一度・・・!」


コバヤシは武器を新しくまた召喚し、投合をする。


こういう使い方はしたことはないが魔術の練度が上がったおかげか手元から召喚した武器を離してもある程度は実体が保てるようになっていた。


「うおおおお!」


リッドは残るコバヤシセンパイに喰らい付こうとしていた獣に思い切りこん棒を振り下ろす。


響く耳に残る鈍い音、こん棒に打ち付けられた獲物は気づいたら倒れていた。


「初めてにしてはやるな。よし、もう少し探索するか」


思ったより二人とも行けそうなのでもう少し奥に進んでみる。


「コバヤシセンパイ・・・は強いですね!多分私たちだけなら危険だったかもしれません」


アリサは尊敬のまなざしをこちらに向ける。


「ふふー-ん!コバヤシはドラゴンを倒したこともあるんだからね!」


スラ子は自慢げにそう言った。


「俺が一人でやったみたいに言うな・・・」


軽く談笑しながらパーティは奥に進んでいく、あと何匹かのビックラッドを倒してパーティは引き返すのだった。














「ありがとうございました!」


ギルドに帰還すると受付に報告をする。


大した依頼ではないがこういうパーティでの達成感も悪くないな、と思う。


「あの・・・これを」


リッドとアリサは俺に申し訳なさそうに報酬の一部を渡してきた。


「ああ」


そういう事か、まあ新人だったし気まずいのだろうが。


「気にするな」


二人にお金を返すと、


「お金はそれなりにある。新人からもらうのもセンパイとしては気まずいしな。まあ受け取っておいてくれ」


「ありがとうございます!」


二人はこちらに頭を下げ、離れていく。


「コバヤシセンパイ・・・!なんかずるい!」


スラ子はどうやらセンパイと呼ばれてみたいようだった。


「いつか呼ばれるさ、俺たちもまだ新参だ。有名になればその機会も増えるさ」














俺はスラ子の頭を軽くたたいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る