星が綺麗ですね

行武陽子

第1話 出逢い

 桜が、満開に咲き誇っている。風が吹き抜けて、髪とスカートが少し揺れ動く。


 真新しい制服を身に纏い、入学式に向かう途中で道脇に咲いている桜に目を奪われ、思わずスマホを取り出す。

 学校指定のスクールバックをリュックサック風に背負って片手にはスマホ、もう一方には甘いコーヒー牛乳を手に持ち飲みながら歩く。


 スマホの画面に桜が入るように、撮ろうとした、目と鼻の先に女の子と男性がいるのを目撃する。


 桜の木が影になってて気づきにくい位置にいた。

 コーヒー牛乳を飲み終えたので、近くのゴミ箱に捨てて流し目で、桜の木で隠れている男女を見る。


 いやいや、さすがに朝からナンパはないか。

 見間違いだろうけど、心配だから一応様子を伺う。


 距離が遠いから会話の内容まで聞き取れない。


 仕方ないな。

 話しかけて、二人が知り合いなら、すぐ立ち去ればいいか。


 女の子の方に近づこうと歩いていると、男性の背中で見えなかった女の子の顔が僅かに見える。


 女の子と視線が合う。

 ほんの僅かの間だが、女の子の表情を見逃さなかった。

 怖がっている様子を目にした瞬間、思わず手に持ってたカメラの機能を動画モードに切り替えナンパしている男性に声をかける。


「そこのお兄さん、朝っぱらから登校中の女の子にナンパとか暇人なの?」


 男性がこちらに目を向けて、叱るような激しい声を出す。


「クソガキが! 生意気なことを言いやがって! ただ話をしていただけだよ」


 女の子の顔を覗くと、身体がこわばせながら首を横に振っている。


 そりゃ、当たり前か。傍から見たら嫌がる女の子に無理矢理、話しかけてるようにしか見えない状況だ。


「女の子の方は、怖がっているようにしか見えないし、お兄さんが怪しすぎるから近くの交番に行く? お兄さんが嘘でもついたら証拠の動画を押さえてるから見せますね。あっ、手が滑った。近くの交番に電話をかけちゃった。すぐにお巡りさんが来ると思うからお兄さん、待っててね」


 男性が、お巡りさんと言う言葉を聞いた途端、舌打ちをして、足早に去っていった。


 怖い目に遭ったばかりの子を一人にさせるわけにもいかないので、男性の姿が、見えなくなるのを確認して女の子の傍に駆け寄る。


「すぐに助けに行けなくてごめんなさい」


 すぐ近くにいたのに自己判断ミスのせいで、怖い思いをさせてしまった事を反省して深々と頭を下げて謝罪する。


「こんな風に助けられたのは、初めてだったので謝らないでください。こちらこそお礼を言わせてほしいです。助けてくれてありがとうございます!」


 顔を上げると、華奢な身体付きした女の子がこちらを見て話しかけてくる。


 目があった瞬間、透明感のある肌、光沢のあるツヤツヤした柔らかな髪の毛、そして吸い込まれそうな目に釘付けになった。


 なるほど。全人類の男性が、虜になるほどの魅力的な顔だ。これは、ナンパされるわ。逆にナンパしない人間の方が少ないだろうなと思った。


「いえ、当然のことをしたまでですから。とりあえず、ナンパした男性もまだ近くに、いるからもしれないです。二度と、このような自体がないように交番に行って、見回りの強化してもらうように警備の方に事情を説明しに行きましょう」


 女の子が、嬉しそうな表情を浮かべる。


「初めて会ったばかりなのに、とても親切ですね。今までそんなこと、言われたことなかったのでびっくりです」


 こんな可愛い子が、親切にされないとか普通に考えられないけど、深入りするのは悪いから話を逸らそうかな。


「そっか。今まで大変だったんですね。そういえば、まだ名前を言ってませんでした。千葉 怜ちば れいです。気軽に怜って呼んでください」


「わかりました! 私の名前は、鳳城 雫ほうじょう しずくです。入学式とか不安だったけど、同じ学校の子と知り合えて嬉しいです! 私も下の名前で雫って呼んでください!」


 顔が、良すぎて制服見てなかった。


 なんで、同じ学校って分かったのか謎だったけど同じ制服を身に纏ってるから、わかったのか。


「後、同級生なんだし、敬語とか堅苦しいの使わなくていいよ!」


「うん、わかった……」


 タメ口で言い慣れていないような、ぎこちない返事をする雫を見てに思わず笑ってしまう。


「ちょっと! 今、笑ったでしょ! 怒るよ」


 今さっきまで緊張してる様子だったけど、コロコロ変わる表情を見て、まるで小動物を見ている感覚になり、また笑いそうになるのを堪える。


「言い慣れてないのが、可愛かったからつい笑っちゃった」


 そんな他愛もない話をしてたら、いつの間にか交番に到着している。


 それからは、時が経つのはあっという間だった。


 警察官の人が内容を聞いて、話の重要度を理解してくれたお陰で、街の警備強化と逃げ出した男性を見つけ次第、他校の生徒にも接触禁止させるように伝えてくれるとのこと。

 朝から色んな出来事が、起きたが無事学校についた。


 もちろん、遅刻確定である。


 交番から出た後、雫との会話が盛り上がってしまい学校に遅刻の電話をすることも忘れてしまったため、先生とかに怒られるだろうな。


「ごめんね……。私のせいで怜まで遅刻させちゃって」


「全然大丈夫だよ! 入学式とか、だるいけど仕方なく来ただけだよ?」


 遅刻確定でショックを受ける雫とは、裏腹にサボれてラッキーって思っている自分がいる。


 雫の顔を見ると驚いたような顔つきで言う。


「入学式って友達と仲良くなるのに大事なやつだよ!」


 と大きな声で言い放つ。


「どうしよう。私、友達を作るのが苦手だから早めに登校して友達作ろうとしてたのに……」


 待って……。雫が落ち込んでる表情も可愛いすぎる! もしも今日の出来事がなかったら、一生友達にならないまま高校生活を送ってたかもしれないと考えると助けたのが自分で良かったと思ってしまう。


 良かった……? なんでそんなことを思ったのか謎だが雫と友達になりたかったから、そんな風に思ったのかな。


 校門まで近づくと自分達が、来ることを知ってたみたいに、待ち構えている先生が立っていた。

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