第2話 伯爵家の令息リオン
薔薇のお庭でお母様とお兄様とティータイムを楽しんでる僕はスペード伯爵家のリオンおぼっちゃまなんだって。
自分でおぼっちゃまって言うのも笑えるけど、何だか現実じゃないみたいで。
とはいえ記憶喪失事件から3年も経ってるのであなた誰ってことはなくなった。
でも、この薔薇の庭も家族も馴染みがあるから全然知らないって訳じゃなかった。
まぁ、そう思えてきたのも目が覚めてからしばらく経ってからなんだけどね。
「リオンも以前にも増して元気になった様で私も嬉しいよ。最近は滅多に調子も崩さないんだろう?」
イケメンボイスで輝く笑顔を見せるのは僕のお兄様のリュード。
10歳の僕より5歳上の15歳。貴族学院で寮生活してるので月に1~2回しか帰ってこない。
「リュードお兄様、ご一緒にお茶会出来るのが楽しみだったので僕いつもよりとっても元気ですよ?」
お母様似で線が細い僕は、お父様似のシュッとしたお兄様にとっても憧れてるの。お兄様は鋭い紫の瞳とサラサラなブルーグレーの髪を肩まで伸ばしてるクール系イケメンなんだ。
15歳にして細マッチョを越えてきてるし。身長だって175cmぐらい?会う度に背が高くなってる気がするし。
え?僕は145cm、本当ガッカリだよ。
僕は鏡を覗く度に我ながら甘ったるいなと思う外見だから、クール系のお兄様にとっても憧れちゃう。
「ふふ、リオンはリュードが本当に好きなのね。
リュードは学院が忙しいからこうして会うのも久しぶりですもの。リオンも何日も前から楽しみにしていたのよ。」
歳の離れたお姉様でも通じる様な僕たちのお母様は、僕と同じ青い瞳を煌めかせながら楽しそうに微笑んだ。
「今日はリュードのためにまたリオンが考えたお菓子を用意してるのよ?
ね、リオン。」
僕が目覚めてから気づいたことがある。
この馴染みのある世界への違和感。知ってるはずの事にちょっと驚く事があるというか。
馬車の前に角のある生き物が居るとか。
僕の中では馬車を引いてるのは角がない生き物のはずなんだけど。
茶菓子のレパートリーが少ないとか。
もっとふわふわでクリームたっぷりなケーキがあったはずなのに。
聞いても誰もピンとこないみたいだから、料理長に頼んで作ってもらってるんだ。おかげで随分レシピを書くのが上手くなった気がするよ。
「これかい?私はリオンの考えたお菓子を食べるのが楽しみのひとつなんですよ。前回のチーズケーキバー?だったかな?
学院に持って行ったら、悪友たちにすっかり食べられちゃって、また持ってきてくれってうるさくって。
早くうちのカフェテリアに出した方が良いかもしれませんね。」
実は僕がレシピを作ったお菓子たちはトランプカフェで提供されてて、王都の大人気店舗のひとつになってる。
内装も黒と赤のハートやヤリ型、モコモコの木型、ダイヤ型のモチーフでまとめてる。スペード家が経営してるんだ。トランプってのは僕が考えた名前。
良い名前でしょ。何かピンときたんだよね?
「お兄様が喜んでくださるなら、僕もっと美味しいもの考えますね?
でも実際に作ってくれるのは料理長ですけど。ふふ。」
照れ臭くなってはにかむ僕に、甘ったるい流し目で微笑むお兄様の破壊力がすごすぎて、僕は益々赤くなってしまった。
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