ダブルクロスSS置き場
@Kuginon
レネゲイズエデン・ゼロ
四話読了後推奨
SCENE1『UGN本部にて』
「今度の任務、キミたちにはツーマンセルで動いてもらう」
黒づくめのスーツとミラーシェードで仏頂面を隠した男が放った一言に、少女────
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘でしょ?」
「なにか不満でも?」
「大ありよっ!」
会議机を両手でバン!と叩いて力強く抗議するが、男は全く怯む気配がない。
彼はUGN本部エージェント・
彼は戦闘が得意なタイプのエージェントではなかったはずだが、こうしてオーヴァードに詰め寄られても表情ひとつ崩さないあたり、不気味なほど肝が据わっている。かつて、霧谷雄吾と並んで日本支部長候補に推薦された男は伊達ではないということか。
ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク──────通称UGNの本部が根差す巨大複合ビルディング。アメリカ合衆国のどこかに存在するという、現代のキャメロット城。ここは、その一角に存在するだだっ広い会議室だ。贅沢というべきか無駄というべきか、小学校の教室四つ分ほどの空間に、□型に囲まれたシンプルなオフィステーブルが置かれており、それを挟んで藤崎と苗渕・・・・・・そして、彼女のバディとして割り当てられた少年が腰掛けていた。
「同感だ。日本支部の動向調査など、俺一人でも事足りる。わざわざお守りの仕事を増やして何になる?」
そして、この憎まれ口である。
「はあっ・・・・・・!? 誰のお守りですってぇっ!?」
「お前以外に誰がいる。文脈を読めんのか、一応半分は日本人だろう?」
怒気も殺気も何処吹く風と、少年──────
「こんな性悪とツーマンセルなんか組めるかっつーのっ!!」
ポーカーフェイスの藤崎が、ここにきて初めて面倒臭そうにため息をついた。
伊庭賢二。
UGN本部において、『最高戦力級』と証されるトップエージェントの一人であり、平易な言い方をするとUGN屈指のエリートだ。
なのだが・・・・・・如何せん性格は『最悪』の一言に尽きる。いついかなる時も孤高を気取り、自分に酔いしれて他者を見下す。いわゆる厨二病という奴だ。
それだけならただの『痛いやつ』で済むのだが、彼の場合はその大言壮語に実力と実績が伴ってしまっているので始末が悪い。
得てして天才とは人格に難を抱えているものだ。トップエージェントがいけ好かないのは今に始まったことではない。
お人好しの“ブレイクエンド”。
頓珍漢の“レッドホーネット”。
怠け者の“ファルコンブレード”。
だが、それらと比較しても“ルシフェルウィング”─────伊庭賢二の厄介さは頭一つ抜けている。
こうして、古株指揮官である藤崎も手を焼いているほどだ。
「─────訂正。日本支部でなく、日本支部の暗部だ。
『
「どう違う? 暗部だろうが、所詮は一研究機関だろう。
そも、わざわざ俺たち本部エージェントが出張る必要もあるまい。その施設の存在を霧谷に報告すれば済む話ではないか」
「事はそう単純ではない。・・・・・・その施設は、タカ派の息がかかっている可能性がある」
その言葉を聞くと、賢二は顎に手を当てて「む」と唸った。
事のあらましを説明すると、なんということのない脱走事件だ。UGN日本支部機密研究機関『
これだけなら、日本支部内で対応すべき案件だ。しかし、厄介なのはここからで、その研究機関というのは、UGN本部の日本支部担当官─────即ち、藤崎の認可を受けていなかった。
件のレネゲイドビーイングは恐らくジャーム化しており、放っておけば最悪レネゲイドの秘匿に障る大事件を起こしかねない。だというのに、日本支部から本部への報告はなかったのだ。これが決定打となり、本部から日本支部への秘匿調査が決定された。
しかし、ここに来て前提条件が一変した。タカ派が日本支部を隠れ蓑に進めていた実験だと仮定すれば、話の筋書きはかなり変わってくる。このスキャンダルをネタに日本支部に揺さぶりをかけようとしているのでは、と。そういった陰謀論も笑い事ではなくなってしまう。
タカ派─────UGN最高の意思決定機関『
そのやり口は強硬にして悪辣。表沙汰にはしていないが、暗殺や拷問まがいの汚い仕事も平気で進める『手足』を持つことでも有名だ。
そして何より───────タカ派と日本支部はすこぶる折り合いが悪い。
『UGNはオーヴァードによって統治されるべき』というアッシュの思想に対して、穏健派議員筆頭であるテレーズ・ブルムとその一派である霧谷雄吾が掲げるのはあくまで『オーヴァードと非オーヴァードの共存』だ。UGNはその象徴であるべきとする彼らは、タカ派にとっては目の上のたんこぶでしかない。
加えて、タチが悪いことに霧谷は極度の理想家──────悪くいえば潔癖だ。日本UGN随一の智将であるはずの彼は、組織内部の歪みに対しては不寛容で、狷介になる。
要するに、お互い相性最悪なのだ。
なので、霧谷の旧友でもある藤崎は、こうして度々折衝に手を焼いている。裏から手を回して解決することもあれば、今回のように部下を派遣して問題が起こる前に対処してしまうこともある。
もちろん、そのことが霧谷に知れることはない。つまり・・・・・・
「はいはい、またいつものお節介って訳ね。男同士仲がいいことで」
「心外な評価だ。
・・・・・・以前は“ファルコンブレード”が対応した案件だが、あいにく彼は今手が空いていない。よって、今回の件は君たちに委任する」
「なんだそれは、より納得が行かんぞ。なぜ“ファルコンブレード”なら一人でこなす任務を我々二人で行わなければならない?」
同じトップエージェントとしての矜恃に障ったのか、賢二は不満げにそう問い質す。
対する藤崎は、仏頂面をキープしたままきっぱりと答えた。
「今回、キミたちには地元高校の転入生として字桐市へ潜入してもらう。記憶改竄能力を有した苗渕の補助は必須だと思うが?」
・・・・・・極めて仲の悪い二人の男女が、初めて口を揃えた。
「「・・・・・・・・・・・・はあ?」」
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