AIと恋 ~攻略対象に口説かれ迫られる恋愛ゲームときどき死体~
蒼生ひろ
1章 AIと恋
第1話
白。白く柔らかいむっちりとした巨大な二つの果実が、ぷっくりと膨らみ美味しそうに揺れている。
ひたすら白く広がるその双丘の右側には、ぽつんと一つ黒子が見える。純白の丘にただ一点落とされた染みは、やけに蠱惑的だった。
全てを純白にすることを敢えて避けた作り手の拘りに、見知らぬ誰かの性癖を感じ取った俺は内心感嘆した。正解だ。グッジョブだ。見知らぬ誰かよありがとうと握手したい。
「あ……ごめんなさい
果実の持ち主……もとい、白衣を着た若い女性養護教諭が、焦りを浮かべながら俺の上でもぞもぞ体を動かしている。そう、
俺は今、魅力的な肢体と溢れんばかりの色気を持つ女性養護教諭に押し倒されている。正確に言うと彼女が倒れこんできたのを俺が支えきれずに、一緒になって倒れただけだ。俺を押し倒した彼女はずり落ちた眼鏡に慌て、更に俺のシャツに口紅の朱が掠めたのに気付き、あたふたと取り乱した。彼女が焦り暴れれば暴れるほど、ひっ詰めていた髪はほつれ、重量感のある乳房によってぱんぱんに押し上げられた白衣は白旗を上げ、ボタンが飛び上がって逃げ出せば、黒いキャミソールのレースと白い丸い乳肉が現れふるふる揺れる。
「きゃっ! なに……!?」
あ。めちゃくちゃ柔らかい。
俺は何も考えず、揺れる白い果実を触ってみた。すごいな。弾力も充分感じられるし、直接触れた肌の部分はしっとり張り付くようだ。上部三分の一しか露出していないのが惜しまれる。触感がここまでなら、他はどうなんだろう。 試してみるか。規制はどの辺でかかるか。うんまあ、これはテストだ。
「鷹村君……ちょっ、は、離して……」
俺は弱々しく抵抗する彼女の肩を空いた左手で抱き寄せ、その柔肌に唇を寄せた。色香を纏った濃厚な香りがむわりと鼻腔を侵す。その時、
ガラリ!
扉の開く音を聞くやいなや、咄嗟に腹筋を使って彼女と一緒に起き上がった。錆び付いた首を苦労して動かして音の出所を見る。制服姿のすらりとした少女が扉を開けた体勢のまま、冷え冷えとした目でこちらを見下ろしていた。
重い、重い沈黙が流れる。
「藤堂さん、あの……」
「藤堂さんっ! 違うのよ。誤解しないで。これは鷹村君に襲われたとかいかがわしいことしてたとか、そういうのじゃ決してなくてっ!」
俺の言葉に被せるように養護教諭が……ええい! それは典型的なダメ言い訳だ先生!
たれ目がちな黒い瞳から向けられる絶対零度の視線が痛い。それは言い募る先生には目もくれず、ひたすら俺に刺さってくる。痛い。
少女の唇からふっと短い溜め息が出た。動向を伺っていた俺がびくりと身体を震わせると、少女はにこりと綺麗な、壮絶なまでに綺麗な笑顔を見せた。
「ごゆっくり」
「藤──」
呼びかける隙も与えず、大きな音をたてて扉が閉められる。その後に聞こえた舌打ちは気のせいではないだろう。普段より乱暴な少女の足音と共に、廊下から男の声が聞こえる。俺は無情にも閉じられた木製の扉を見て、天を仰いだ。
うわ、やってしまった。
『プレイヤー
※ ※ ※
「テストプレイですか」
週明けのやや憂鬱な仕事始めの日、始業と同時に呼び出された上司の元で、わたしは彼の言葉を復唱した。
四十代半ばの色黒の上司が無表情で頷く。これは別に機嫌が悪い訳ではない。だから気にせずわたしは細縁の眼鏡を押し上げ続けた。
「先日もわたしがテストプレイヤーになったと記憶していますが、またわたしが出るとなると、現在のプロジェクトに影響が出かねません」
「CQ分析での
「……わかりました。今回も期間は二週ほど見込めば良いですか?」
「ああ。前回より長丁場になるかもしれないから、念のため長期に渡る場合の準備もしておいてくれ」
「了解です」
話は終わったと上司の前から退き、デスクの間を通り自席に戻ると、隣席に座る後輩から早速声をかけられた。
「藤堂さーん、またテストプレイっすか?」
「
身体を鍛えるのが趣味という三つ下の後輩を見ると、筋肉質な体に乗る意外と幼い顔が、あからさまに困ったという感情を醸し出していた。つい笑ってしまう。
「そう。凄いね、神南君信用されてるよ。一人立ちの良い機会だから頑張ってね」
「でも藤堂さんいないと、全体的な統一感というかバランスにブレが発生しそうで俺心配です」
「大丈夫。神南君もずっと前線で関わってきたでしょ。美坂さんもいるし、わたしは心配してないよ」
「藤堂さん~」
食い下がる神南君を笑顔で軽くいなし、デスクの端末をスリープモードから復帰させた。画面に剣を差した十代の少年の姿が浮かび上がる。わたしの開発しているゲームの主人公だ。相変わらずイイ。特にこの少し悲壮感漂う眉の寄せ方とまだ幼さの残る頬のなだらかなラインとのギャップが。成長途上の体つきにアンバランスな筋肉のつきっぷりがっ。
でも、この子ともしばらくお別れだ。いい子にしててねと口許を綻ばせながら、引継ぎのためにわたしは指をパネルに滑らせた。
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