枝垂挫ゆいは可笑しくなった。

九日晴一

Said goodbye.

(0

 懐から落ちたものを見下ろす。

 黒く冷たい拳銃が、水たまりに波紋を生んでいた。屈んで手に取ると、自分は何を思ったか、それを掲げた。

 重なる波紋が伝わり、スニーカーのつま先に阻まれる。


 銃口の先に立つ少女が、薄く笑っていた。儚い佇まいで、今にも透けてしまいそうで怖かった。

 けれど、込められた弾丸なら間違いなく心臓を撃ち抜くことができる、と直感が囁く。それこそが正しい行いなのだと思えて、自分が恐ろしく感じる。


 引き金、指をかけ。

 感じる重さ、わずか。

 音はくぐもり、あっさりと。


 最後になにかをつぶやいて、少女は崩れた。

 こぼれた血液は涙と混ざり合う。絵の具を筆で組み合わせるというよりは、バケツの水に垂らしたかのような広がり方だ。

 水面に立ち尽くす影。燃えるような赤色が涙に褪せていく。変化していく。


 いつしか。

 自分が立つ境界の向こう側は、黄色い景色で埋め尽くされていた。

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