愚痴

庭鳥 十坂

電車


 電車の中。大抵の人が、構造もよく知らない精密な携帯電話「スマホ」に何かを必死に見出そうとしている。

 取り憑かれているのだろうか?そう思わせるほどの執着は、現代妖怪と言っても差し支えないだろう。

 しかし、何故にそんな人差し指を動かしているのだろうか。何の動作をしているのか。

 気になった私は、窓の反射を利用してだいたい何をしているかを確かめた。

 すると、どうだろう。その人は素早い動きで文字を打ち込んでいた。文字である。文字か。

 どんな内容かはわからない。もしかすると、その内容は私への愚痴かもしれない。例えば「隣の男は気味が悪い。死んでしまえばいいのに」とか。今の時代は匿名で好きなだけ悪口を言えるから、ありえなくはない話だ。

 すると、その人はスマホをカバンに直し、その席から離れた。それと同じ時、私は正面にある窓を介して自分の姿を見た。

 そこには、ちょうどスマホを手に取り、人差し指を画面に置いている私の姿があった。

 なんて恐ろしい。

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