へんじがない。

「何してやがる!魔力の無駄だろうが! 作戦変更だ、”命令通り”。俺の言うとおりにしろ!」


「わかったわ」


「お前もだ。武闘家。作戦変更。ためが必要な特技ばかり使ってないで、普通に攻撃しろ。」


「分かった。」


「ほら、そこ。戦闘中に魔法使いの回復はいい。戦闘後に薬草を使うから、今は攻撃だ」


「でも、アンナが・・・」


「作戦変更だ。」


「アンナ、ごめんね」


 動く腐乱死体を前に戦闘態勢となった4人のパーティー。そのうち戦闘で剣をもち、騎士鎧に身を包んだ男は、他の軽装の3人を怒鳴り散らかしていた。


 ここは、完全没入型RPG、アナザーライフの世界。プレイヤーは冒険者となって世界を旅することになる。目的は、魔物が跋扈する世界で町や村を救いつつ、経験を積み世界征服を企む魔王を倒すことだ。RPGの王道のど真ん中をいくストーリー、古参・新参問わず感覚で操作できる戦闘システムはやや古めかしいという評価があったものの、ふたをあけてみればスマホゲーム全盛の時代に、コンシューマーゲームとして異例の大ヒット。名前にもある通り、昔も今も全男子の夢であった完全没入型のRPG部門で現段階での最高傑作として、認知されていた。


 しかし、まだまだ改善の余地があるところもあるようだった。仲間キャラは命令しなければ、好き勝手に行動する。ボスの戦闘の前に、魔法力を使い切るわけにはいかないっていうのに。完全没入型でVRを超えた近未来のゲームなのは認める。しかし、アルゴリズムは低レベルと言う他ない。




 そんなこともあったが、やっとここまできた。ダンジョンの中で一番広く、ドアが用意されている大広間。この奥のドアを開け、玉座に鎮座しているゴブリンキングを倒せば近くの村々を襲っているゴブリンはいなくなるはずだ。そのお礼として、村長が村に代々伝わるオーブを渡してくれる手はずになっている。オーブを5つ集めなければ、最終ボスである魔王の結界を破れず、攻撃できないのだ。魔王を倒すために、このボスを倒すことは必須であるといえる。相手は、ボスとその取り巻き4体。


「こいつらを倒して村に平和を取り戻すぞ!」


「「「おう!」」」


「魔法使いは攻撃倍加魔法、僧侶は支援魔法を俺にかけるんだ」


「はい」「わかったわ」


「武闘家は俺と一緒に、取り巻きを中心に攻撃だ。」


 自分は相手モンスターと対峙し、剣から火花をあげながら切り結ぶ。武闘家と一緒に、打撃でダメージを与えるのが自分の役目だ。魔法使いと僧侶は後衛として、パックアップ。他のモンスターが合流して来ないか気を配りながら、隙を見て攻撃魔法、時間で切れたり、相手にかき消されたりした魔法があれば、支援魔法をかけてもらう。


 しかし。相手の攻撃の火力が思いのほか強い。取り巻きも、回復魔法や補助魔法を覚えているようで、厄介だ。このまま、他の魔物と同様の戦い方をすれば、じり貧になって、こちらがやられてしまうだろう。レベル差もあるし、もしかしたら倒せるかもしれないが、万が一攻撃のターゲットが自分に重なってしまったら、ボスを倒すときには自分は死んでしまっているかもしれない。そうなると経験値が入らなくなってしまう。ここは…


「僧侶は俺に回復魔法、魔法使いは雑魚を蹴散らすために特攻して、自爆魔法だ。落ち着いたら回復させてやる」


「はい」「わかったわ」


 自爆魔法に巻き込まれて、ボスの取り巻きが倒れる。戦況も落ち着いてきた。よし、これなら。


「僧侶は魔法使いに復活魔法だ」


「OK」


魔法の詠唱が背後から聞こえる。うまく復活できたらできたで良し。できなかったとしても、今のこの状況なら、何とか渡り合える。魔法使いに経験値が配分できないことは痛いが、自分が受け取れないよりはましだろう。


「よし、後はこのまま何ターンかで倒せるだろう。作戦変更、”しっかりやれ”だ」


 そのとき。待ってましたとばかりに魔法の詠唱が告げられる。魔法陣の光とともに飛んでくる麻痺魔法。その先にいるのは、ボス…ではなく。自分。だめだ。よけきれない。魔法がソフトボール大に可視化された電気の塊が、自分の腹のあたりに正面からぶつかってくる。同時に自分の意思とは無関係に身体全身が伸びきり、電流が走る。力を失った体が自由落下そのままに落ちていく。自分の眼前に床が迫る。ガツン!額から生あたたかさが広がり、視界を赤が侵食していった。


 動かぬ身体。状況を把握しようと、脳が高速回転を始めた。その魔法を打った相手を視界の隅で捕捉すると、後衛として復活をしていた魔法使いだった。


「っ!! おい、どこに向けて撃ってる!」


 痺れが残る唇では、言葉にならなかった。


 麻痺魔法、パラライズは相手を60秒間スタンさせるという強力な魔法。だが、その強さゆえボスモンスターに効くことはほぼない。さすがにそれが分からないキャラではないはずなのだが。


 前衛にいたはずの武闘家。前衛である彼がいつの間にか自分の隣を離れていた。後ろに下がっていた後衛の二人と合流している。一番最初に口を開いたのは、魔法使いだった。


「やっと決定的な隙を見せてくれたわね」


 間違いない。こいつは、わざとこの俺を狙い打ちやがった。


「ごめんなさい、勇者さま。でもこうするしかなかったんです。」


 僧侶の女。こいつもグルか。絶対に許さない。


「仲間は大切にだ、勇者。」


 武闘家、お前もだ。お前ら、NPCに心があるみたいな発言をしやがって。


「元々、あんたが悪いのよ。セナもビルも、私だってあんたの道具じゃないし、ケガだってしたら痛い。それなのに、魔力の無駄だ。戦闘中じゃなくて、戦闘後に回復しろ!なんて」


 当たり前だ。戦闘後だったら、袋にある薬草も使える。魔法力も使わない。いついなくなるやもわからないパーティーメンバーより、自分が生き残り、レベルアップを優先するに決まってる。


「今度からは平等に行きましょうね!装備ももう少し、気を使ってくれたら嬉しいです!」


 僧侶の言葉が終わると、もう言うことは無いとばかりに3人は背を向ける。


「おい、見捨てていく気か!」


 喋れずとも、目に灯った怒りの炎が彼女たち三人にも伝わったらしい。これ見よがしに長いため息をついた後、魔法使いが口を開く。


「どうせあんたは町のセーブポイントで復活するじゃない。次に会うときは、その傲慢な態度、直しときなさいよ。さあ、セナ、ビル。ボスがあいつに注意を向けている間に、ここを離れましょう。」


 三人がドアを抜けて、この場を離れていく。ボスの大きな斧が頭に向かって、振り降ろされ。俺の視界は真っ暗になった。




 タイトル画面に戻ります。


 このままゲームを終了しますか。


 →はい

  いいえ

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《刹那的》短編小説集 蒼井 静 @omkk

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