18.イメルダの誤算

(負けられぬ、絶対に負けられぬ!!!!)


鬼の形相でカインを睨むイメルダ。怯えるカインに叫ぶ。


「お前がカインか!! 恨みはないが、我が妹の為全力で打ち負かす!!!」


「ひ、ひえぇぇ~」


顔を殴られ怯えるカイン。イメルダが剣を抜きカインに斬りかかる。



――男なら立ち向かうんだ


「えっ!?」


ドンと真横を通り過ぎるイメルダの剣。その素早い斬り込みをカインは間一髪かわした。



(今の声、じっちゃん……?)


「はああ!!!」


シュンシュン、シュン!!!


カインは何度も斬り込んでくるイメルダの攻撃を当たる直前でかわしていく。そして震えながら思う。


(逃げてちゃだめだ。怖いけど、怖いけど……、強くなる為に僕は逃げない!!)


シュン!!!


ことごとく剣撃をかわされるイメルダに焦りの色が出る。


(意外と、素早い……!?)


怖がっていた割には素早く剣をかわすカインに驚くイメルダ。しかし更に連撃を行いカインを闘技場の端に追い詰める。


「これで終わりだあああ!!!」


イメルダの渾身の一撃がカインを襲う。



ガアアアン!!!!


「う、嘘だろ!?」


カインはイメルダの渾身の一撃を、剣を横にして受け止めた。


(う、受け止めた? 手は抜いておらぬ。しかも微動たりもしない!!)



カインはまだ少しだけ震える手に力を込めて思う。


(怖い、怖いけど、じっちゃんから受け継いだ竜の力。僕がもっと頑張らなきゃ!)


カインは防いでいたイメルダの剣を弾き飛ばし、今度は逆に斬りかかる。体勢を崩されよろめきながらカインの攻撃をかわすイメルダ。

それを見た観衆からはおどおどしていたカインの意外な攻勢に歓声が起きる。



(素早さだけじゃない。こいつ、が半端ない!!)


まるで硬い岩に剣を打ち込んでいるような感覚になるイメルダ。カインが繰り出す剣は不安定ながらも速く、そして何よりも硬かった。



「ちっ」


少し遅れて会場にやって来たヴェルナは意外なカインの善戦をつまらなそうに舌打ちをして眺めた。



「ああ、もう倒れそう……」


一方、王城占星室から戻ったシルファールは、闘技場の上で繰り広げられるカインの戦いを快感に身を震わせながら見つめていた。国難襲来と言う緊急事態なのに、そんなことがどうでも良くなるような熱い戦い。シルファールが顔を赤めて妄想する。


(カイン様のお顔、カイン様の汗、カイン様の匂い……、ああ、もう倒れそう……)


バタン!


興奮の絶頂を迎えたシルファールは妄想しながら本当に椅子から落ちて倒れた。


「ひ、姫様!?」


後ろにいた女性従者が突然椅子から落ちた姫に気付いて叫ぶ。従者はシルファールの身を起こしその場で介抱し始めた。




意外な苦戦にイメルダが後退して言う。


「やはり付け焼き刃の剣では冒険者には分が悪いか。じゃあ見せてやる、私の本当の力!!」


そう言ってイメルダは懐から召喚獣の卵を獲り出して投げつけた。


ドオオオオン!!


カインとイメルダの間に現れる魔法陣。そこから現れたのは真っ赤に燃え盛る精霊イフリート。下半身は炎のように燃え、上半身は筋肉隆々の逞しい姿。それを見たカインが悲鳴を上げる。



「ぎゃあああ!! う、うそおぉ!? 無理無理、な、なんなの、あれ!? あ、あんなの絶対に無理いいぃぃ!!!」


余裕の笑みを浮かべイメルダが命じる。


「さあ、やっておしまいイフリートよ! すべてを灰燼に帰せ!!!」


イフリートが大声で咆哮する。そして両手から素早く火球をカインに放った。


「ひ、ひひゃああぁ!!」


必死に火球を避けるカイン。しかし燃え盛るイフリートと対峙しているだけで再び足が震え始める。イメルダが思う。



(負けられない、ミルカの為に絶対負けられない!!!)


「さあ、イフリート! あいつを追い詰めよ!!! ……!?」


これまでイメルダの命令に応じていたイフリートの様子がここに来ておかしくなる。頭を抱え苦しそうに顔を歪める。それに気付いたイメルダが言う。


「ど、どうした、イフリート!?」


イフリートは両手を大きく上げ叫んだ。



「我の、我らの神、様、炎神竜様あああああ!!!!」


そう言ってどんどんと体に巻き付き燃え上がる炎、そして体自体が大きくなっていく。その姿に驚き後退するイメルダ。


「ど、どうしたんだよ!! イフリートおおお!!!」



それを観客席から意識を取り戻したシルファールが言う。


「今、って、言ったのかしら……!?」


シルファールに汗が流れる。



「グオオオオオ!!!!」


一方巨大化したイフリートは無差別に周りへ火球を放ち始めた。冒険者だけでなく一般人も観戦に来ている争奪戦コンフリート。その観客席に火球が放たれる。


「はあっ!!」


観客の近くにいた冒険者が飛んで来る火球をはね返し皆を守る。しかしイフリートの暴走は収まらない。イメルダが叫ぶ。



「や、止めなさい、イフリート!!! どうしたって言うのよ!!!」


イメルダは泣きそうになって叫ぶが、それでも我を忘れてイフリートは暴れる。その間近で腰を抜かして怯えるカイン。


「ど、どどどどうなっちゃったの、これ……!? あわわわっ……」


暴走しなくても恐ろしいイフリート。それが巨大化し目の前で暴れまくる姿はカインにとってはこの世の終わりに等しい光景であった。

イフリートが放った火球がカインに向けて飛ぶ。それに気付いたマリエルが闘技場に上がり叫ぶ。



「カインさん、あぶなーーーい!!!」


マリエルは怯えて動けないカインに向かって全力で走る。そしてカインの身体を抱き横に倒れ込む。


ドオオン!!


紙一重で火球をかわす二人。その真横に火球が落ち、強烈な熱風がマリエルを襲った。


「きゃあ!」


灼熱の熱風を背に受けたマリエルが苦痛の表情をする。そしてそのショックで意識を失った。

カインは動きでマリエルを抱き上げ、そして闘技場の端へ運び横に寝かせた。イフリートを見てひとり言う。



「おいおい、。今日は試合じゃなかったのか? 何だよあれ」


そう言って巨大化し暴れまくるイフリートを見つめる。更に自分の着ていた上着を脱ぎ横たわるマリエルに掛ける。


「しかもまた女に助けられて。またすまねえな、。すぐ終わらせる」


そう言ってイフリートの前まで行きそして言う。



「おい、お前。俺が相手だ」


カインライガは全身から怒りの闘気を発した。

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