竜のギフト 〜竜の力を受け継いだのに勘違いで追放された内気な僕が時々体に転生する強い人と一緒に無双するお話〜

サイトウ純蒼

第一章「ガーデン王国編」

第一節 ~カインと雷牙~

1.カインと雷牙

「あれ? こ、これってもしかして見捨てられたの……」


カインは後ろを振り返ってみたが、それまでいたは誰一人としていなくなっていた。

周りには無数の魔物とその死骸。そして目の前には巨大なオークロード。肩にはそれに劣らぬぐらいの大きな鉄の棍棒が担がれ、そしてこちらをじっと睨んでいる。



(どどどど、どうしよう……、ひ、ひとりじゃ勝てないし、いや、勝てるどころか、そもそも逃げることもできないし……)


カインは震える体や足に力を込めようとするが、先にも増してガタガタと震え始める。



(せ、せっかく強いに入団できて頑張ってたのに……、こ、怖いよ……)


オークロードがゆっくりとカインに近寄る。




「ミ、ミルフォード団長!! まだ前にカイン君が残ってまいす!! 直ぐに助けに行かないと……」


その眼鏡の少女は撤退を指示した団長のミルフォードに懇願するように言った。ミルフォードが真っ青な顔をして言い返す。


「な、何言ってるんだ! あんな奴、ランクBの俺達じゃ勝てねえだろ。カ、カインだって皆が全滅するより、ファインズの為に、役に立つならと喜んでいるはずだ!!!」


「そ、そんな馬鹿なことを!!!」


「う、うるさい!! 俺が団長だ!!! 俺に逆らうな!!!!」


ドン!!


ミルフォードはそう言うと魔法少女の腹を思い切り殴った。ううっと声を出して少女は気を失う。ミルフォードは前線の方を一瞥してから、速やかにと撤退して行った。





「な、何でこんなところに!?」


オークロードの前で恐怖に震えるカイン。その隣にいつの間にか少女がやって来て言った。


「え? だ、誰!?」


(か、可愛い……)


カインは突如現れたその少女を見てドキッとした。少女が答える。


「私はクララ。ララ・ファインズの団長。それより何でこんなところにひとりで?」


(ファ、ファインズの団長さんだって!?)


ファインズと言うのは冒険者が集まる戦闘集団。この少女がその団長だと言うことに驚くカイン。カインは震えながら目の前のオークロードを見て答える。


「わ、分からないけど、多分置いて行かれたかも……」


「ええっ、うそぉ? 酷い……」


クララは眼前のオークロードから目を逸らさずにになって言う。



「笑って」


「へ?」


「こんな時こそ笑わなきゃ。『いつも心に笑顔を』引きつった顔に未来はない」


「で、ででででもおお……」


カインは引きつった顔で無理やり


「うん、いいじゃない。それじゃ私が時間を稼ぐ。その間に一緒に逃げるわよ!」


「え? あ、うん……」


カインは弱々しく返事をした。

クララは手にしていた木の箱を開けると、中から小さなクッキーを取り出して口に放り込む。驚くカインが尋ねる。


「な、何でお菓子なんて食べてるの!?」


クララが言う。


「私のスキル『お菓子な魔法』よ。さて、もう来るよ、もぐもぐ……」


そう言いながらお菓子を食べ続けるクララ。そして叫ぶ。


「いいの来た! 行くわよ!! ファイヤーストーム!!!!」


クララが両手をあげると目の前にいるオークロードの足元から炎が舞い上がる。



「す、凄い!!」


それを見たクララが叫ぶ。


「さ、早く逃げるわよ!!!」



ブオン!!


「え!?」


炎に包まれたオークロードが持っていた鉄の棍棒を一振りすると、周りにあった炎が一瞬で消え去った。



「う、うそ……」


それを見たクララが信じられない顔をして言う。


「あわわわっ、な、なんだよ、こいつ……」


カインも震えて声を出す。



同時刻、少し離れた場所に一人の女性がその強い邪気を感じて魔法転移して現れた。そしてその光景を見て救助しようと、その先に立つオークロードを見つめる。しかしすぐに表情が厳しくなった。



「オークロードとは厄介……、え!? あ、あれって、まさかオークロードじゃない!?」


女性はその魔物が通常のオークロードではなく、それがオークの中でも数体しか存在が確認されていない最上位種だと気付いた。突如震え出す体。手にじわっと出る汗。激しく鼓動する心臓を押さえながら女性が考える。


(一気に接近して転送魔法すれば……、いや、もし一瞬でも躊躇すれば全員瞬殺……)


女性の顔から汗が流れる。




「オマエラ、許サネエ!! ココでコロス!!!!」


ロイヤルオークロードはそう言うと持っていた巨大な鉄の棍棒を振り上げた。遠くで見ていた女性が思った。


(しまった、間に合わない!!!)



「きゃあああ!!!」


クララの悲鳴が辺りに響く。



ドーーーン!!!


「……え!?」


クララは棍棒の風圧で砂埃が立つ中、その攻撃をひとり剣で受け止めるカインの姿を見て驚いた。



(……が来た。安心しろ)


「……ら、雷牙ライガ。いつもごめん、後は任せる……よ……」



カインは剣の上に圧し掛かっていた棍棒を勢いよく弾き飛ばした。


「グッ!?」


突然自慢の棍棒が弾かれたロイヤルオークロードが驚く。クララが言う。


「わ、私がまた時間稼ぐから、あなたは逃げて」


そう言って再びお菓子を食べようとする。カインが尋ねる。



「お前、誰だ? 何で戦場で菓子なんか食べてんだ?」


「へ?」


クララは手にしたお菓子を持ったまま固まった。


「な、何でって、私はララ・ファインズのクララで、お菓子は魔法発動の為でしょ!!」


クララは先程と同じ説明をした。「なるほど」と言って頷くカイン。唖然とするクララ。そしてロイヤルオークロードが言う。



「ナ、ナンだ。おマエ……」


何故かロイヤルオークロードの額に汗が流れていた。周りを見たカインが言う。



が一匹か……」


「ブ、ブタ!? な、ナニを!!!!!」


それを聞いたロイヤルオークロードが顔を真っ赤にして怒声を上げる。そして手にしていた巨大な棍棒で再び殴り掛かって来た。カインが独り言を言う。



のブタって焼いたら美味いのか?」


そう言ってふっと姿を消すカイン。


「な、ナニ!?」


オークロードは突如消えたカインに驚く。そして次の瞬間、オークロードは自分の頭上に現れたカインに気付いた。カインが剣を振り上げて叫ぶ。



強撃斬きょうげきざんっ!!」


ドオオオオオオオン!!!!


「ギャアアアア!!!!」



カインが一筋の光の様に上空から地表に素早く降り立つ。それと同時に、持っていた剣で巨大な敵の体を鎧諸共もろとも一刀両断にした。

ドオンと大きな音を立てて倒れるロイヤルオークロード。彼に仕えていたオーク達もその光景を見て怯え、次々と逃げ始める。

地表に降り立ったカインが流れ出す緑色の血液を見て言った。



「不味そうだな、やっぱ……、うっ、ううっ!?」


突如カインが頭を押さえる。戦いを間近で見たクララが駆け寄る。



「す、凄いよおおおお!!!! あなた、凄いじゃん!!!!」


「へ!?」


目を開けたカインが半分に斬られたロイヤルオークロードを見て叫ぶ。



「ぎゃあああああ!!! 何これ!? な、何で半分!? うぎゃっ! き、気持ち悪いいいいい!!! ぎょぐわふっ!!」


そう叫ぶとカインは剣を持ったままグルグルと回転して、白目を剥いてその場に倒れた。



「ええっ!? な、なに? どうしたの、これ!? ええっ?」


目の前に倒れるカインを見たクララが逆に驚く。そんなクララの背後から声が掛けられた。




「あ、危なかったわね。ここは危険、私が送りましょう」


「シ、シルファール姫!!」


先程まで少し離れた場所で見ていた女性、シルファール姫は倒れるカインとクララの元にやって来て言った。クララはその女性の姿を見て驚きと共に安堵の表情を浮かべた。深々と頭を下げるクララ。


「彼をよろしくね」


シルファールはそう言うと、優しく微笑みながらクララと気絶したカインを王都へ転送魔法で送った。ひとり残ったシルファールが斬られたロイヤルオークロードを見て言う。



「あの、あのロイヤルオークロードをたった一撃で……」


シルファールはまるで心臓を思い切り握られるような快感、そして感じたことの無いような快楽が全身を包むのを感じた。



――あの激しい一撃。ああ、ああぁ……


誰よりも強き男に惹かれるシルファール姫。

先程のカインの強烈な一撃を思い出し、甘い吐息を吐いて体をくねらせる。その感じたことの無い強烈な快楽に全身の力がどんどんと抜けていく。

シルファールは頬を赤らめながらその場にへなへなと座り込んだ。

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