#6 アリだと思いーます

 さてさて。そんなわけで。


「オーウ! 君が我が研究会に堂々と侵入してきた坊やですかぁ!」


 俺は今、土下座をさせられている。


「えーと、鶴岡舞我。大学二年生。友人なし彼女なし。声質は普通。なになに、大学の同学年の話によると、『何を考えているか、わからないヤツ』、ですかぁ」


 俺を尋問しているのは、この研究会の長。横浜モデーナだ。彼女はこの活動部屋に帰ってきて早々、俺に土下座フォーメーションを強要してきた。


 当然だ。俺は女性の住居に不法侵入をしたのだから。


 あれ? 何で不法侵入したんだっけ?


「なーるほど、なーるほど。合格です!」


 何が?


「だからバーチャル配信者としてウチに所属することを許可します!」


 マジかよ、デジかよ、アグネスデジタル。


「君は暗音の落とし物を届けにきただけ。何も悪くないです!」

「しかし」

「そのしかしは却下しまーす!」


 り、理由を聞きたい。何故俺がバーチャル配信者になれるのか。


「配信者自体に資格が必要とでも? 大事なのは続けられるかどうかでーす」

「でも俺。配信者として成功するかどうかわからないですし」

「少なくとも私たちは成功するかしないかでVの者になったわけではないでーす」

「では、何故」

「好きだからでーす。もう一人の自分になりきるのが」

「もう、一人の」

「あなたはどうでーすか? もう一人の自分に会ってみたいと思いませんか?」


 なんか、宗教みたいだな。


 そうかもしれない。


「何も現実が全てではあーりません。というか、そもそも現実とは何なのでしょうかねー?」


 そんなの、俺の方が知りたい。


「なら、やるだけやってみればいいじゃないでーすか」

「どうして」


 どうして彼女は、彼女たちはそこまで俺に――


「だってあなた、死にそうでーすもん」

「は?」

「あなたも青春に翻弄された一人だと思いましてね。幽霊みたいな顔をしていますし、どうせ死ぬつもりなら、違う自分になってみるのもアリだと思いーます」


 そう、だったのか。


 俺は心のどこかで自分の存在をどうでもいいと思っていたのかもしれない。


 だからこのマンションに侵入できたんだ。自分がその後どうなってもいいと、思っていたから。


 ならば、いいんじゃないかな。仮想空間を死に場所にしても。


「んで、んで? やりますか、バーチャル配信者」


 彼女たちが俺に構う理由がわかった。他のVがどんな理由で活動しているのか知ったこっちゃないが、彼女たちは本気で自分たちの居場所を作ろうとしている。


 本当の現実を求めている。


 俺と彼女たちは同じだったんだ。


「やり、ます」


 俺は――迷子だったんだ。

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